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(3)家族の死 「余った骨は引き取った」
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家族4人が亡くなったアパートは駐車場になっていた=神戸市須磨区権現町1
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家族4人が亡くなったアパートは駐車場になっていた=神戸市須磨区権現町1

家族4人が亡くなったアパートは駐車場になっていた=神戸市須磨区権現町1

家族4人が亡くなったアパートは駐車場になっていた=神戸市須磨区権現町1

 護岸をコンクリートで固めた妙法寺川が蛇行する内側に、新築の民家とマンションが立ち並ぶ一角がある。神戸市須磨区権現町一丁目。身元不明死者一人が見つかった「武丸文化施設」は、駐車場になっていた。

 震災前、木造二階建てのこのアパートには二世帯が住んでいた。

 二階の一人暮らしの男性は焼失前に脱出。その後の住所はわからない。

 一階の河合さん一家は四人全員が死亡した。明男さんと妻貴美子さん、長女靖子さん、二女加代子さん。東京で社会人になっていた長男明弘さん(35)だけが難を逃れた。

 震災翌日。神戸に戻った明弘さんが焼け跡に呆然(ぼうぜん)と立ち尽くす姿を、近所の女性は鮮明に覚えている。

    ◆

 武丸文化の家主はすぐ見つかった。板宿商店街でふとん店を経営している武貞裕文さん(43)。明男さんはこの店の「番頭さん」だった。「まじめで信頼できる人だった」

 武貞さんは河合さん一家の消息を知ろうと家族で避難所を探し回った。明弘さんも加わった。

 やがて須磨署から連絡があった。「おたくの店員が焼死した。確認してほしい」。遺体が安置されていた須磨区民センターに駆けつけると、小さなビニール袋五つが無造作に置いてあった。

 中身は砕けた骨片。確認のしようがなかった。困惑する武貞さんの隣で明弘さんが言った。

 「僕の家族は四人。一つは返します」

 鵯越墓園に納められた無縁さんは、残されたあの骨のことだろう。武貞さんはそう思っていた。しかし、違った。

    ◆

 東京の明弘さんに連絡を取り「震災のことを聞きたい」と告げた。

 長い沈黙。やがて、ぽつり、ぽつりと語ってくれた。

 明弘さんは、実家跡の捜索に立ち会った。自衛隊員や警官ら約十人が、土をふるいに掛け、白い骨を丁寧に拾い集めた。西側の部屋跡に四カ所に散らばった骨があった。東側の部屋跡でも骨が少し見つかった。この現場の状況から、骨は「五人分」になったらしい。

 身元不明死者の骨について聞くと、意外な言葉が返ってきた。

 一度は警察に返した袋の骨を、その後、引き取ったという。「ご家族の骨に違いない」と須磨署に説得された。東京近郊に墓を建て、五袋分の骨を埋葬したという。

 「ですから、実家のアパートに身元不明の死者がいるとは思えない」

 当時の入居状況からみても、「身元不明一人」に相当する人物はいなかった可能性が高い。

 だとすると、疑問が残る。鵯越墓園の骨はどんな経緯で納められたのか。通常ならあり得ない行き違いがあったのか。当時の須磨署幹部にも取材したが、疑問を解く証言は得られなかった。

2004/6/2
 

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