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震災10年 守れ いのちを 第3部 史上最大の派遣

(10)姿 不確かなまま縮む距離
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 自衛隊は今年、創設五十周年を迎えた。

 六月初め。淡路島・津名港沖で海上自衛隊呉地方隊の五十周年記念訓練があった。神戸港も利用し、護衛艦や潜水艦など二十二隻、航空機八機が参加。「体験航海」と称し、抽選で選ばれた人や招待客約一万人が乗船した。

 自衛隊兵庫地方連絡部(神戸市)によると、以前は高齢者やマニアが目立った見学に、若者や女性の姿が増えている。阪神・淡路大震災、イラク派遣などで関心の高まりがうかがえる。

 甲板はのどかな雰囲気だった。家族連れが弁当を広げ、航空機が近づくと歓声が上がった。

 親子で初めて乗船した神戸市西区の主婦(41)に参加理由を尋ねた。

 「自衛隊の本当の姿を知りたいと思った。何も知らずに、文句は言えないから」

 多くの隊員が「自衛隊アレルギーが強かった」という神戸の街。「制服で市庁舎に行けなかった」。そんな気風は、大きく変わった。震災翌年から、自衛隊は毎年、神戸まつりのパレードにも参加している。

 神戸地区労働組合協議会は「自衛隊の宣伝の場ではない」として、まつりへの参加に反対する申し入れを市に続けてきた。六月の海自の訓練でも、「商業港が軍事利用される」と訴えた。市の対応は素っ気なかった。

 「自衛隊に世話になったという感覚があるのだろう」と、同協議会の黒崎隆雄事務局長(52)。

 神戸市や、かつて革新市政だった尼崎市でも、震災を機に、自衛隊が防災訓練に参加するようになった。尼崎市消防局は「自衛隊の力なくして、大規模災害は乗り切れないという意識が高まった」とする。

 「自衛隊頼み」の姿勢が強まる。垣根はどんどん低くなる。

 早稲田大学の水島朝穂教授(憲法学)は「自衛隊は住民を守るためではなく、国の防衛や治安維持を目的とした組織。災害時の『自衛隊活用』を安易に進めると、災害救助が戦争の仕組みの中に組み込まれてしまう」と危ぐする。

 「対戦車ヘリ一機で、防災ヘリが何機も買える。自治体の防災力を高めるために予算を使うのが、本来の姿ではないか」

 震災で初めて自衛隊に接したという市民は多い。

 神戸市東灘区の主婦有本順子さん(47)もその一人だ。自分の住む区に、海自の基地があるのも初めて知った。

 毎日通っていた給水所で、若い隊員に感謝の手紙を渡した。《自衛隊といえば、あまりよいイメージを持っていなかったのですが、震災以来、頼りになる存在になりました》

 しかし、その後、手紙が自衛隊の震災記録集に掲載されていると知ったとき、釈然としない気持ちになった。自衛隊という組織に向けて書いたわけではなかった。親切な現場の隊員に「ありがとう」と言いたいだけだった。

 自衛隊の存在は否定していない。若い隊員が黙々と働く姿には、頭が下がった。「被災者のために」という熱意が伝わってきた。ただ、イラク派遣や有事法制のニュースを見るたび、漠然とした不安が広がる。

 「自衛隊に関する議論は、出てくる意見が両極端。長所も短所も含め、客観的に判断できる情報がほしい」

 自衛隊とは何なのか。何を求めるのか。本質的議論が深まったとはいえない。「距離」だけが縮まる中、不確かな「実像」を鮮明にしたいとの思いが強まっている。

=おわり=

 (社会部・磯辺康子、小森準平)

2004/9/14

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