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震災10年 守れ いのちを 第3部 史上最大の派遣

(9)主従 「本業」めぐり世論と差
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 鳥インフルエンザ問題への対処をめぐり、自衛隊内部で激しい議論があったという。

 「われわれがやるべき業務ではない、との意見が多い中、非常に難しい判断だった」

 陸上自衛隊中部方面総監部(兵庫県伊丹市)防衛課長の増田潤一一佐(45)=現・陸自研究本部研究員。神戸市内で今年五月、自治体の防災担当職員を前に講義し、“内幕”を明かした。

 二月末、京都府丹波町の養鶏場から鳥インフルエンザが広がった。府は、鶏約二十万羽の処分について、自衛隊へ災害派遣を内々に打診した。

 自衛隊法八十三条で定める災害派遣には、適用の三大原則がある。「公共性」と「緊急性」、ほかの組織ではできない「非代替性」だ。

 総監部で意見が分かれた。鶏の処分という作業が原則を満たすのか。そもそも同法が想定する事態なのか。

 結論は「災害派遣の枠組みは適当ではない」だった。ただ、派遣を拒めば批判されるかもしれない、という声が出た。苦肉の策として、同法百条が訓練目的で定める「土木工事等の受託」を適用し、防疫事業の専門部隊を派遣することにした。

 ところが直後、別の養鶏場にも飛び火した。「二次感染の恐れがあり、緊急性の高い事態」と府の担当者。陸自は三月四日、同法八十三条に基づく府知事の災害派遣要請を受諾した。

 内閣府が一九六九年から約三年ごとに実施している自衛隊に関する世論調査がある。九七年、「自衛隊が存在する目的は」との設問(複数回答)で、「災害派遣」は「国の安全の確保」を上回り、初めて一位になった。

 考え得る要因はもちろん、九五年の阪神・淡路大震災。その後も首位を譲らず、昨年の調査では七割以上の人が「災害派遣」を挙げた。

 そこに自衛隊のジレンマがある。

 震災十カ月後に策定された防衛計画大綱で、災害対応を重視する流れはできたが、災害派遣はあくまで「従」の任務。「主」となる本業は国防だ。

 「どこまで災害派遣のハードルを下げなければいけないのか。鳥インフルエンザの一件で、ちょっと不安になった」。そう話す隊員もいる。

 冷戦構造の崩壊以降、自衛隊では組織の合理化が粛々と進む。

 例えば、自衛官全体の六割以上が属する陸自。それまで十八万人だった定員を十四万五千人(常備自衛官)に減らすことが、防衛計画大綱に盛り込まれた。海自、空自でも編成のスリム化が具体的に示されている。

 一方で、来年初旬には中部方面隊に順番が回ってくるイラクでの復興支援活動。年に八百件を下回ることのない災害派遣。自衛隊自ら「能力が不十分」と認める原子力災害や生物・化学兵器テロへの対処も課題として残る。

 リストラは進み、業務は増える。民間企業にも似た悩みを抱えるのが、この組織の現状だ。

 国民の意識の転機となった大震災で、災害派遣を指揮した中部方面隊の元総監、松島悠佐氏(65)は「できる限り派遣要請には応えるべきだが」と前置きした上で続けた。

 「民間の力でできることは極力やってもらう。(テロ対応など)自衛隊でしかできないことのために備えるのが、国民の負託に本当に応えることになるのではないか」

2004/9/12

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