「人類と樹木との共存」。一九九四年の暮れ、三原泰治さんが大阪で開いた個展のテーマだった。くしくも二十日後の震災で自然の脅威を思い知り、「樹木の目線で」被災地を歩き始めた。
「悲惨な、しかし忘れてはならぬ震災の傷跡が日々撤去され、身を削られる思いだった。樹木ある復興、被災物の保存を求めて走り回った」
そんな折、長田の街で「変なモノ」と出合った。満身創痍(まんしんそうい)でそびえ立つ「神戸の壁」だ。戦災・震災を耐えた古い壁に、「悲惨を超えた崇高な美」を感じたという。
市民らを巻き込んだ運動の末、壁は震災五年後、淡路・津名町に移設保存された。同時に、折節に描いてきた「神戸の壁絵図」も残った。
「壁は生き証人。その姿、その時々の空気を描くことで、震災の教訓と人間ドラマを伝えたい」
震災に遭遇し、自然の力による文明都市の非力さを痛感した。
被災地の光景は地獄だけでない。建物は倒壊し、焼け尽くしても、延焼をくい止めた樹木達に涙した。
「震災の真実・体験と教訓を伝える」ことこそ、私の使命と思った。世界の人々に伝承するために、形ある生き証人「神戸の壁」の保存を推進、人々の共感を得て実現した。
この行動は現代に生きた証(あかし)であり、私の目指すパブリック・アートである。
メモ
みはら・たいじ
神戸市生まれ。被災地を描き続け、自然との共生を訴える。リメンバー神戸プロジェクト代表。同市垂水区在住。
◆
阪神・淡路大震災を題材にした地元の美術家や写真家の作品を集めた「震災を描いた作家たち展-あの頃(ころ)、その時、そして10年」(同展実行委、神戸新聞社など主催)が二〇〇五年一月二日から十七日まで、神戸・三宮のそごう神戸店新館八階で開かれる。出品する十人の作家たちの思いを聞いた。
2004/12/10