まるで日記を綴(つづ)るように。安田泰幸さんは神戸の街を歩き、絵はがき風のスケッチを続ける。異国情緒、ハイカラ…。震災は大切なものを多く奪い去った。
「呆然(ぼうぜん)として」。自身も被災し、スケッチどころではなかった。しかし、壊れ解体される阪急三宮駅などを見るにつけ、変わりゆく風景と復興への動きを記録し、残したいと思った。
「助け合う人々。再建へのエネルギー。震災で見えたものは、ひどいものばかりではなかった」。直接表現するわけではないが、その目は震災で人々が見せた心を見すえる。
これからどんな街が生まれてくるのか、安田さんは楽しみにしている。「失ったものを取り戻すことは難しい。しかし街は移りゆくもの。完結ではなく、進行形の街を描いていく」
街の表情の断片を小さな紙片に描き続けてきた。海・山・森の豊かな自然に囲まれた陽(ひ)あたりのよい街、たった百数十年の間に外国の文化をふんだんに取り入れて発展してきたハイカラな街、明るくスマートに洗練された自由の雰囲気が漂う街、そんな街・神戸に魅せられて描き綴ってきた。一瞬にして多くのものを失い傷ついた街だが、励まし合い協力し合いながら生きることや、家族や隣人を思いやることを大切に思う神戸の街に誇りをもちたい。
メモ
やすだ・やすゆき
1950年大阪市生まれ。京都教育大卒。作品集に「神戸・街ものがたり」など。神戸市中央区在住。