神戸を描き続けて四十年になる。
高度経済成長の時代。「なじみのある場所を、描き残しておきたい」。思いを胸に、移りゆく街を歩き、見続けてきた。しかし、地震に襲われるとは予想だにしなかった。
栄光教会が崩れ落ち、阪急会館が解体された。言いようもない哀れな姿。「現状を残しておかなければ」-。座り込み、スケッチを始めた。
夏。下山手カトリック教会を訪ねた。赤レンガのがれきの間から、新芽が出ているのに気付いた。生命の力と、再生への希望を強く感じた。
今秋、再建された栄光教会の前にいた。あの日、愛惜の感情を込めて絵筆を走らせたことを思い出した。
「永遠に失われた風景もある。でも、絵の力で後世に伝わってくれればと祈っています」
私は、神戸で生まれ育ち、自然に恵まれた神戸が大好きで、失われゆく懐かしい風景、移り変わりゆく新しい活気ある街を描き残してきました。
未曾有(みぞう)の阪神淡路大震災では、長年築き上げてきた神戸の街が一瞬にしてがれきの街に変わってしまいました。この惨状を絵を描く者の使命として、絵を通して記録し、犠牲となった方々への追悼と鎮魂のため被災現地を歩いて現実を心を込めて描きました。
メモ
みはら・やすお
1940年神戸市兵庫区生まれ。日本水彩画会展などで活躍する。神戸市文化活動功労賞受賞。神戸芸術文化会議、半どんの会会員。