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(10)聖地 門開き、違いを豊かさに
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震災10年。もろびとの集った“聖地”から2人が旅立つ=神戸市長田区海運町3
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震災10年。もろびとの集った“聖地”から2人が旅立つ=神戸市長田区海運町3

震災10年。もろびとの集った“聖地”から2人が旅立つ=神戸市長田区海運町3

震災10年。もろびとの集った“聖地”から2人が旅立つ=神戸市長田区海運町3

 公園での炊き出しに、いつも並ぶおじさんと顔なじみになった。

 阪神・淡路大震災のとき、神戸女子大一回生だった朋子さん(29)。卒業までの約三年、神戸市北区の自宅から鷹取に通ってボランティアをした。

 おじさんは地震の記憶を語るようになる。妻を亡くしたという。「助けられなかった」「死にたかった」。話すたび涙し、朋子さんも泣いた。

 「何もできず、つらかった」と朋子さん。でも、悲しみに寄り添ってもらい、おじさんは救われたのではなかったか。

 朋子さんは、ゴリラ隊の「ベイビー」青木優尚(まさなお)さん(29)と結婚し、今、生後二カ月の長男の子育てに忙しい。

    ◆

 被災者に寄り添う。それこそボランティアの役割だったかもしれない。

 仮設住宅を訪ねるボランティアに、植木鉢の下の皿を投げつける男性がいた。アルコール依存症だった。炊き出しをすれば「偽善者は帰れ」と怒鳴られた。看護師のシスター是枝邦子さん(64)は腕をつかまれ、危うく殴られそうになった。

 それでも、是枝さんは声をかけ続け、食事を届けた。ある日「あんた、ええ人やな」と男性が言った。是枝さんは「そうよ」と微笑んだ。

 「人は変われるよ。だって人は、愛したい、愛されたいって思っているんだから」

 是枝さんは鷹取に五年、留まった。

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 六月に台湾へ移設される「ペーパードームたかとり」で、この十七日、最後の結婚式があった。新郎のティエン君(25)は、車用品を買った店で、店員だった新婦さっちゃん(22)と出会った。

 「外国人と知り合えるなんて、なんかすごい」。付き合い始めた日、さっちゃんは書店でベトナムに関する本を五冊買った。一方で、家族は外国人との結婚に戸惑っていて、さっちゃんも不安になった。父の言葉に救われた。「幸せになるんやろ。それが第一条件」

 神父の神田裕さん(46)は式の参列者に絵本「あおくんときいろちゃん」を紹介した。青と黄の二人が出会い、うれしくて抱き合って緑になる。どちらの家族も最初、緑を拒むが、経緯を知って色の変化を皆で楽しむ-。

 神田さんは参列者に語りかけた。「同じ色同士より、二人はもっと豊かな色になるかも。私たちも一緒に染まりたい」

 違いが豊かさになる。だから、どんな被災者にも、ボランティアにも、救援基地は門を開けた。

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 是枝さんは横浜市の修道院に移り、老人福祉施設で働いた。〇三年夏、せきが止まらず、診察を受けた。「悪性リンパ腫(しゆ)の4期」と告知された。

 体内に悪性の細胞が広がっていた。「もし神戸に行っていなかったら」と是枝さんは語る。

 「仕事をできないのは人間失格、なんて落ち込んでいたかも。すべて失っても、自分まで失わない人に神戸で出会った。神戸に力をもらい、しゃきっとしていられる」

 抗がん剤が効き、奇跡的に体力が回復した。

 「神戸は聖地ね。だって、神戸で新しい自分に出会ったのだから」

(記事・宮沢之祐 写真・田中靖浩)=おわり=

2005/4/28
 

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