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(2)淡路島 9メートルの津波防潮堤突破
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南あわじ市・福良湾(撮影・大山伸一郎)
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南あわじ市・福良湾(撮影・大山伸一郎)

南あわじ市・福良湾(撮影・大山伸一郎)

南あわじ市・福良湾(撮影・大山伸一郎)

 兵庫県最南端、南あわじ市の福良港。震度7の激震で古い木造家屋の大半が崩れ落ち、多数の住民が生き埋めになっている。地震発生から39分後、県内で最も早い第1波が襲来。その後、9メートルの津波が2・95メートルの防潮堤を軽々と乗り越える

 12月は養殖の「3年とらふぐ」のシーズンだ。水揚げと出荷でにぎわう浜は日が沈むと静まり返る。住民の大半は自宅でくつろいでいる。

 福良地区は人口5544人。65歳以上の高齢者が37%を占める。新耐震基準前に建った木造2千棟が浜の斜面に張り付くように密集している。

 そこへ阪神・淡路大震災と同じ震度7の激震が襲う。倒壊を免れた住民は訓練通り、裏山の高台を目指す。走れば5分。だが、倒壊家屋が幅3メートルの狭い路地をふさぎ、つえを頼って歩く高齢者の行く手を阻む。

 福良港から西へ約100メートル、海抜6メートルにある市立老人ホーム「さくら苑」。60~104歳の80人が暮らす。寝たきりの10人の部屋は1階にある。

 「自分たちの命は自分たちで守るしかない」。高見雅文施設長は2カ月に1回、避難訓練を重ねてきた。元気な入居者が「お助け隊」を結成、寝たきりの人を背負って海抜10メートルの2階に逃げる。

 旧想定なら2階で助かるはずだった。だが、新想定では津波高が2倍になり、施設は水没する。海水が窓ガラスを突き破り、部屋になだれ込む。すぐ裏の高台までは道路を迂(う)回(かい)して約150メートル。高齢者が外に出て駆け上がるには厳しい。

 市は、施設から高台に直接つながるスロープの建設を決めた。完成予定は3月末だ。

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 兵庫県は2007年、津波のシミュレーション動画を作成。防潮堤を越えた波は中心部に押し寄せ、旧役場前の幹線道路は濁流の水路になる。

 講習会でこの動画を見た本町自治会長の溝口薫さん(55)は、お年寄りのつぶやきが忘れられない。

 「あんな津波に襲われたら、『お迎えが来た』と思うしかない」

 新想定では当時の2倍の津波が襲い、地区の9割が水没しかねない。

 南あわじ市の松下良(よし)卓(かた)防災課長は危機感を募らせる。「生き埋めになった人を30分以内に救出できるか。もし、途中で津波が来たら…」。答えは見つからない。

 福良湾では、津波の威力を弱める県内初の「湾口防波堤」を県が計画する。だが、完成は早くても数年先だ。

 南あわじの沿岸をのみ込んだ津波は、紀淡海峡に突き出た洲本市の由良港にぶつかり、洲本川河口に広がる市街地に押し寄せる。高さは3メートル

 海岸線が南北に延びる洲本市は津波を正面から受け止めない。だが、濁流は高さ2・65メートルの防潮堤を突破。洲本川を遡(そ)上(じょう)し、海抜1~1・5メートルの市街地は瞬く間に浸水する。

 海岸から約400メートルの市役所は築50年。「津波の前に、揺れに耐えられるのか」と同市消防防災課の原勝哉主任。2016年度、隣接地に新庁舎が完成する予定だが、浸水の可能性は残る。

 逃げ遅れた買い物客や住民が目指すのは大型商業施設イオン洲本店だ。立体駐車場の屋上は高さ約10メートル。津波は約5時間、何度も押し寄せる。黒々とした波に取り囲まれると、逃げ場はない。

(木村信行)

2013/1/13
 

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