地震発生から半日後。津波の去った街に人々が集まる。「生きているぞ」。がれきの下に、子どもが見つかったのだ。だが、自衛隊や消防隊員が駆け付ける気配はない。地震や津波で兵庫県内の全壊家屋は5万4800棟。生存率が急減する「72時間の壁」が刻々と迫る
政府は、大阪城そばの大阪合同庁舎4号館(17階建て)に現地対策本部を設ける。
48時間以内に被災地外から動員が見込める自衛隊員と警察官、消防隊員は計4万6190人。静岡県に9080人、愛知県に8840人、高知県には8730人。兵庫県には自衛隊員300人だけだ。
阪神・淡路大震災では、発生初日だけで全国から消防隊員1180人、自衛隊員3300人以上が集まった。それでも、生き埋めになった約3万5千人の救助に当たったのは8割近くが近隣住民だ。国立病院機構災害医療センターによると、十分な治療が受けられず、被災地外の病院に搬送されていれば助かった死者は500人と推定される。
5時間後。全国の病院から集まった医師や看護師が自衛隊などのヘリへ。災害派遣医療チーム「DMAT(ディーマット)」。だが、数十カ所の災害拠点病院は津波で浸水している。
人と防災未来センターの紅(べに)谷(や)昇平主任研究員は話す。「高知、和歌山は東北よりも道路事情が悪く、救出作業は東日本大震災以上に困難。全体的には、兵庫県は被害が小さく、支援は期待できない」
地域は、がれきを動かすジャッキやハンマーなどの救出機材を備えているか。住民がいち早く集まり、協力しないと、負傷者は助け出せない。
スーパーに飲み物や食料品を買いだめする人が殺到し、3日後には商品棚が空になる。物資の届かない避難所では、空腹で座り込む避難者がひしめく
県は従来の被害予測で避難者45万人、帰宅困難者110万人、断水の影響は99万人と試算。新想定を踏まえ、近く公表する被害想定が、これを大幅に上回るのは確実だ。
県内で自治体が備蓄する110万食は2日と持たず、飲料水27万リットルは1日で尽きる。そこへ、徳島、和歌山県から物資の支援要請が飛び込む。
コンビニやスーパーは、在庫の多くを支援物資として自治体に回し、店舗は品薄になる。配送トラックは商業目的に当たるとして緊急車両に認められていない。交通網は寸断し、食品工場は停電で生産が停止しかねない。
ひょうご震災記念21世紀研究機構の五(い)百(お)旗(き)頭(べ)真理事長は危機感を隠さない。「南海トラフ巨大地震では、海外支援が欠かせない。受け入れが遅れた阪神・淡路、調整が不十分だった東日本の轍(てつ)を踏んではならない」
東日本では、避難所で亡くなった人が岩手、宮城、福島の3県で94人(昨年8月時点)。兵庫県災害対策課は「3日間は乗り切れるよう、普段から飲み水と食料の備蓄を」と呼び掛ける。奪い合えば、命が脅かされる。
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東海地震が今後30年に起きる確率は88%、東南海70~80%、南海60%程度。ただし、100年以上も大きなひずみをため込んだ三つの震源は「同時連動」という最悪のパターンで襲いかかるかもしれない。生き抜くための備えは十分か。それは、「正しく恐れる」ことから始まる。
(安藤文暁)
=おわり=
2013/1/24