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(3) 長周期地震動  高層ビル 揺れ幅は2メートル
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神戸市・高層ビル群(撮影・宮路博志)
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神戸市・高層ビル群(撮影・宮路博志)

神戸市・高層ビル群(撮影・宮路博志)

神戸市・高層ビル群(撮影・宮路博志)

 高層マンションが立ち並ぶ神戸市臨海部。夜景を見下ろす一室で家族が談笑している。そこに最初の揺れ「P波」が音速よりはるかに早い秒速7キロで到達する。小刻みに震える食器棚を見つめた主婦は約20秒後、悲鳴を上げた。秒速4キロの主要動「S波」が襲来したのだ。震度6強の強烈な横揺れは、阪神・淡路大震災とは全く違っていた

 高さ30メートル(オフィスビルの7階程度)以上の高層ビルやマンションは神戸市内に1680棟。2005年の1・4倍だ。

 阪神・淡路大震災は真下からの激震に身構える間もなかった。だが、海溝型の南海トラフ巨大地震はゆっくりと横に揺れ、P波からS波までに神戸で十数秒の猶予がある。

 「すぐに家具の少ない部屋や廊下に逃げ込むべきだ」。防災科学技術研究所の長江拓也主任研究員は、長周期地震動の再現実験を重ねてきた。

 兵庫県の瀬戸内沿岸部。地表より3メートル下は縄文期に海だった名残が、プリン状の軟らかい地層として10メートル前後堆積し、揺れを増幅させる。30階建てのマンションは4分間しなり続け、最上階の揺れ幅は最大で2メートル弱になる。

 食器棚は倒れ、ガラスが飛び散る。固定していない家具は凶器となる。テーブルの下に逃げ込んでも、床を滑るタンスやテレビが襲い掛かる。オフィスでコピー機がぶつかれば約1トンの衝撃だ。

 1989年に完成した神戸市役所1号館(30階建て、132メートル)は建築の際、長周期地震動を想定していない。市は「国が進める研究や対策が具体化すれば、耐震補強を検討したい」とする。

 だが、東日本大震災では震度3で大阪府の咲洲(さきしま)庁舎(55階建て、256メートル)が10分間揺れ、最上階は横に約3メートルしなった。防火戸など360カ所が壊れ、エレベーターに人が閉じこめられた。

 午後6時すぎ、神戸市役所1号館。約1600人の職員を未体験の揺れが襲う。

 時速200キロ超で走る新幹線はP波を感知、緊急ブレーキがかかる。激しい揺れで車両が傾くが、停止するのは3~4キロ先だ。渋滞中の高速道路では運転手が一斉にハンドルを取られ、トラックや車が次々と追突する

 帰宅時間帯。駅のホームは人であふれる。午後6時、JRの新幹線は新大阪-西明石間で上下5本、在来線は大阪-明石間で同36本、尼崎-宝塚間で同12本が運行中。満員なら1本に数百~千人が乗っている。

 阪神・淡路大震災では、JRと阪急、阪神の各線で、被災地を走っていた電車の半数近い16本が脱線。高架橋が崩れ、線路はゆがんだ。

 「つり革や手すりが命綱だった」。107人が死亡した尼崎JR脱線事故(2005年)で、大破した1、2両目から生還した乗客30人の大半がそう証言する。実際にどれだけの人がつかまれるのか。

 18年前、横倒しになった阪神高速神戸線。夕刻の1時間に約6千台が、直下の国道43号では約3千台が、それぞれ芦屋市を通過する。

 「橋脚は対策済み。阪神・淡路級の地震でも壊れない」と担当者。だが、長周期地震動は、つり橋や高架橋に予想外の揺れを引き起こす。ドライバーは、タイヤがパンクしたような感覚に陥る。速度を落とし、無事に道路端へ止められるか。

(安藤文暁)

2013/1/16
 

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