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(7)地下空間 濁流流入 避難客に迫る
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神戸・三宮の地下街(撮影・斎藤雅志)
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神戸・三宮の地下街(撮影・斎藤雅志)

神戸・三宮の地下街(撮影・斎藤雅志)

神戸・三宮の地下街(撮影・斎藤雅志)

 神戸市中西部の沿岸を走る市営地下鉄海岸線。午後6時、震度6強の烈震で三宮・花時計前-新長田間7・9キロを走行中の電車(4両編成)5本が脱線し、乗客500人がトンネル内に取り残される。脱出口はなく、非常灯を頼りに最寄り駅まで歩く。エレベーターやエスカレーターは停電で動かない。駅員らが負傷者や高齢者を背負い、急勾配の階段を上る。ようやくたどり着いた地上も津波浸水区域だ。第1波まで1時間23分。避難場所は見つかるか

 神戸市長田区のビル地下にある地震計が「震度6強」を観測。司令室は走行中の運転士に緊急連絡する。

 「時速25キロに減速し、次の駅まで徐行運転するのが原則だ」と神戸市交通局の太田正巳安全対策係長。ただし、脱線すれば最寄り駅まで歩くしかない。駅間距離の最長はハーバーランド-中央市場前の1・4キロ。真ん中付近で脱線すれば、けが人を背負って700メートルの避難が必要となる。火災が起きれば、密閉空間を黒煙が襲う。

 全駅の改札内などにいた乗客800人も一斉に地上を目指す。最深部で約32メートル。下町を走る海岸線の乗客は高齢者が多い。病院通いで週2回、利用する兵庫区の鈴木政江さん(85)は「誰かに背負ってもらわないと、こんな急な階段は上がれない」と困惑する。

 海岸線は全10駅のうち8駅が津波浸水想定区域にある。地上に出てから山側に走る時間はない。近くで津波避難ビルを見つけられるか。

 和田岬と旧居留地・大丸前の2駅には、入り口を完全に封鎖する「止水鉄扉」があるが、乗客全員が避難するまで閉められない。

 地震発生から約2時間後。防潮堤を越えた津波は、海抜ゼロメートル地帯にある和田岬駅から滝のようにホームへ流れ落ちる。

 逃げ遅れたら足を取られ、前に進めない。

 午後7時半すぎ。4メートルの津波が沿岸部の防潮堤を突破。ハーバーランドの海際、神戸新聞社などが入る神戸情報文化ビル(18階建て)の1階を破壊し、地下街「デュオこうべ」へ流れ込む。濁流は通路を駆け抜け、南北380メートルに並ぶ計53店舗は水没する。都心部でも、地下通路から入り込んだ津波は神戸最大の地下街「さんちか」に迫る

 ミニバイク並みのスピード(時速25キロ)で市街地を襲う津波は、地下に入ると勢いを増し、逃げ切るのは困難だ。「地震発生から30分以内の避難が全ての鍵を握る」と神戸地下街で危機管理を担当する小野肇主幹。

 海抜8メートルエリアの地下にある「さんちか」(121店舗)は水防法上の義務がある避難計画策定の対象外だ。だが、地下通路はモグラの巣のように沿岸部とつながっているため、昨年10月、同計画をつくり、津波対策に乗り出した。小野主幹は「完全に水没する事態もあり得る」と話す。

 さらに深刻なのは、1日数十万人が行き交う大阪・梅田の地下街だ。大阪湾を襲う5メートルの津波は淀川と堂島川を遡(そ)上(じょう)して氾濫、濁流が50カ所以上の出入り口から流入する。周囲に高台はなく、大阪市は中心市街地での津波避難ビルの指定を急ぐ。

 人と防災未来センター長の河田恵昭・関西大教授は警告する。「震災対策で最も遅れているのは、地下の津波対策だ」

(木村信行)

2013/1/22
 

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