長さ4・3キロの巨大岸壁。一直線に並んだ船にコンテナが吸い込まれる。韓国・釜山港は世界5位の港湾都市だ。52位の神戸港とは圧倒的な差だが、「常に危機感がある」とは釜山港湾公社マーケティング担当の張馨鐸。国内総生産は日本の4分の1。中国との競争も激しく、「このままでは成長が望めない」。
同公社は港周辺に工場や物流施設を誘致、貨物を生み出すのに懸命だ。賃料は1平方メートル当たり月額約40円と破格に安い。多くの日本企業が進出する。
「日本は釜山を利用して物流コストを下げたらどうか」。10年、大阪でセミナーを開いた同公社の社長(当時)の盧基太は余裕の表情で呼び掛けた。
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コンテナ取扱量で世界1位から8位までを独占するアジアの港湾。一方、阪神・淡路大震災をきっかけにアジアの主要港の座から落ちた神戸港。北米や欧州を大型船で結ぶ「基幹航路」の数も、震災前の42から13年は11と約4分の1に減少。釜山は27から49、上海は1から61に伸びた。
ただ、「世界トップレベルではなくても、基幹航路があることが神戸の国際競争力を保っている」と国際物流に詳しい関西外国語大教授(神戸大名誉教授)、宮下國生(71)。「航路維持には、釜山に流れた貨物を取り戻すだけでなく、港への企業集積による『創貨』も重要だ」。神戸港の再生には企業誘致が欠かせない。
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神戸港を空から見ると、空港島と対岸のポートアイランド2期に空き地が広がる。ポーアイ2期の賃料は1平方メートル当たり月額431円と、釜山港周辺の10倍以上だ。
国や神戸市は今夏、港近くに物流施設を新設する企業に、事業費を無利子で貸し付ける制度を導入する。建設費の利子補給は異例だ。貨物を検品、仕分けする大型施設を想定する。
震災後、市は被災した摩耶埠頭(ふとう)をがれきで埋め立て、工場や物流施設向けの用地として約60・4ヘクタールを整えた。ここに、おもちゃ量販チェーン・日本トイザらス(川崎市)の物流倉庫と森永乳業(東京)の工場が進出。周辺には中古の自動車や建設機械を扱う企業約30社を集めた。
「高付加価値品の企業を呼び込み、輸出額を押し上げる。戦略的な誘致が将来につながる」。半世紀ほど港を見てきた神戸貿易協会会長で神栄相談役の新(あたらし)尚一(72)の実感だ。
強まる一方のアジアの磁力。流れに抗しつつ、活路を模索する日々が続く。=敬称略=
(高見雄樹、石沢菜々子)
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〈基幹航路〉北米や欧州を結ぶ幹線。この船の寄港地と周辺の小規模港を結ぶのがフィーダー(支線)航路。基幹航路の数がハブ港の実力を示す。近年、船舶の大型化で世界的に基幹航路数が横ばいか減少傾向にある。
2014/6/26