阪神・淡路大震災から来年1月で丸20年となる。神戸港が目指すべき道はどこにあるのか。国際輸送に詳しい宮下國生・関西外国語大教授(71)と竹林幹雄・神戸大大学院海事科学研究科教授(48)の2氏に復活への方策を聞いた。
▼関西外国語大教授 宮下國生氏/釜山と競う事業モデルを
-震災後、神戸港の貨物が韓国・釜山などに流出した。
「釜山の船会社は、欧米の基幹航路のある神戸港を競争相手とみなし、低運賃で貨物を運ぶ。西日本の荷主は神戸の国際的競争力によって、輸送コストを下げられた。結果として、神戸など拠点港と距離のある日本海の港は、釜山と結びつくことで効果的な物流ができるようになったが、瀬戸内海側の貨物も分散させてしまった」
-どう取り戻す?
「西日本の貨物を拠点港に集める内航コンテナ船の新規参入が相次いでおり、効率的で付加価値のあるサービスを増やしたい。船の大型化、低燃費化によるコストダウンや損害保険の充実などだ。港湾管理の民営化も物流コスト削減につながる。埠頭(ふとう)会社の統合が1年早まったことに地元の覚悟を感じる。民間の知恵を生かした細やかなサービスで、釜山に対抗できる事業モデルを最初に示すことが肝心だ」
-アジアの主要港に追い付くのは難しい。
「港だけで考えず、産業と結びついてこその港であることを再認識するときだ。後背地の産業育成に当たって、海外の技術力がすぐに追い付くような産業は価格競争力で負けてしまう。革新性の高いベンチャー企業を育てていくべきだし、ファッションなど神戸というブランド力を生かした産業も強みだ。産業規模の大小にかかわらず、神戸周辺で事業を起こすことがプラスと思わせることが、神戸港の再生につながる」(聞き手・石沢菜々子)
▽みやした・くにお 神戸大院修了。同大、流通科学大などを経て12年から現職。神戸大名誉教授。西宮市出身、在住。
▼神戸大大学院教授 竹林幹雄氏/貨物増へ産業構造明確に
-神戸港が長期低迷している。
「産業構造の変化が大きい。1980年代半ば以降、最終消費財の生産・輸出は台湾や中国に移った。韓国は物流大国を目指し、中国の黄海沿岸や日本の地方港にセールスをかけた。そのタイミングで震災が起きた」
-貨物は震災前水準に戻らない。
「安いものを大量に運ぶ海運は新興国向けモデルだ。日本が貨物を増やしたいのなら、どこにどんな産業を張りつけるかという産業論が要る。航空機や医療・創薬が成長分野というが、嵩(かさ)が低くコンテナの量は増えない」
「今後、中国と東南アジアが世界の工場としてさらに存在感を増す。日本はどんな経済的関係を持ち、サプライチェーン(調達・供給網)のどこを担うのか。港の復活にはものづくりの明確な目標設定が欠かせない」
-地方港と、神戸や大阪などの拠点港。どうすみわける?
「地方港の増加は『均衡ある国土発展』を国是として取り組んだ結果だ。拠点港に集約すると地方経済の衰退につながりかねない。近距離のアジア航路は地方から直接出す方がいい。地元企業の海外進出先とつながるなど、地方ならではの強みが生きるはずだ」
「一方、欧米向けの基幹航路は世界の中心とつながるという価値がある。地方から欧米へ輸出される貨物は拠点港に集めて維持する。一方、拠点港も地方から出す方が効率的なら融通するといった連携も必要だ」(聞き手・高見雄樹)
▽たけばやし・みきお 京大院修了。10年から現職。国際コンテナ戦略港湾推進委員を務める。姫路市出身、滋賀県在住。
2014/7/5