「輸送ルートの一つに必ず神戸港が入る。便利で確実ですから」。広島県府中町のマツダ。円安と新型車人気でフル生産が続く中、調達・物流計画部長の綱島秀行(46)が強調した。
世界12カ国・地域の工場で生産するが、エンジンなどの主要精密部品は国内で作る。「マザー工場」が海外生産を支える構図だ。
部品を入れたコンテナは2013年度で7万4千個(20フィート換算)。半分は近くの広島港から直接、海外へ。残りは神戸港と韓国・釜山で分け合う。広島-神戸間は毎日、国内港を結ぶ内航コンテナ船が運航。時間も正確だ。綱島は言う。「神戸港はマツダの貨物を重視してくれる。海外港ではその他大勢の一つにすぎない」
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「アジアのマザーポート」。阪神・淡路大震災から3カ月後の1995年4月、神戸市はいち早く「復権」をうたった。その後、アジアの成長で上海や釜山などと圧倒的な格差が生まれた。「西日本の産業と国際物流を支えるゲートポート」。照準は足元に向いた。
瀬戸内沿岸に集積するものづくり拠点。岡山、広島、山口の3県、四国、北部九州の合計輸出額は年間約11兆円(13年)。兵庫県の1・8倍だ。
広島県にはマツダのほか自動車部品のリョービや、コベルコ建機などがそろう。三菱重工業広島製作所はボーイング向け航空機部品を特注コンテナに入れ、神戸港から輸出する。この地域の輸出パワーを取り込むことが港の再生に直結する。
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「内航業界の革命」と注目された国内最大の内航コンテナ船が昨年11月、就航した。通常の2倍強の輸送能力だ。導入したのは内航コンテナ輸送最大手の井本商運(神戸市中央区)。2年後にはさらに大型を投入する。
「補助金という生命維持装置なしで内航業界がやっていけるか。その答えが船の大型化」と社長の井本隆之(54)。業界は行政の補助金で釜山との価格差を縮めてきた。井本は大震災後、寄港先を増やし、西日本だけで貨物を倍増。大型化でさらなるコストダウンを図る。「これでようやく釜山と戦える」
オンリーワンの日本のものづくりが存在感を発揮し、アジアのサプライチェーン(部品の調達・供給網)で欠かせない一角を担う。製品は内航から外航に乗って世界へ出る。その積み重ねが港への信頼感を高め、貨物が増える。質が量を生み出す循環だ。
来年1月で震災から20年。いくつもの荒波を越えて目的地が見えてきた。=敬称略=
(高見雄樹、石沢菜々子)
〈内航コンテナ輸送〉神戸港や横浜港など国際コンテナ貨物の拠点港と、各地の地方港を結び、内航船に積んだ輸出入貨物を運ぶ。韓国・釜山に流れた貨物を拠点港に集める内航業者に、国や自治体は補助金を出している。
2014/7/4