3月19日午前8時、約3千人が見守る中、長さ294メートルの巨大な船体が神戸港に滑り込んだ。「世界で最も有名な客船」とされる3代目「クイーン・エリザベス」だ。停泊中、乗船客は神戸や京都の観光を楽しんだ。
英国のキュナード・ラインが運航する英・サウサンプトン発着の世界クルーズで、日本に初めて寄港した。同じグループのプリンセス・クルーズ(米国)は、神戸港発着クルーズなど日本での事業展開を本格化。前社長兼最高経営責任者アラン・B・バクルーは「神戸を母港に西日本に顧客基盤を広げる」と意気込む。
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世界的なクルーズ人気を背景に、神戸港に寄港する外国のクルーズ船が増えている。1995年の阪神・淡路大震災後は低迷したが、神戸市の誘致が次第に奏功。2013年は19隻で、14年は統計が残る89年以降最多の32隻になる見通しだ。
寄港で期待されるのは、百貨店や商店街での買い物や飲食、観光地めぐりなど地元への波及効果だ。発着地であれば乗船前後の宿泊につながる。日銀神戸支店の試算では、12年分(国内外船計110隻)の経済波及効果は年間36億円だった。
震災後、物流面では伸び悩みが目立つ神戸港だが、観光面から見れば「親水空間」を演出する都市の装置でもある。「クルーズ船によるにぎわいは、経済効果だけでなく、港の重要性を市民に分かりやすく伝えてくれる」。クルーズ事情に詳しい大阪大大学院教授の赤井伸郎(45)=公共経済学=の指摘だ。
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6月下旬の1週間、国内最大級のレストランシップ「ルミナス神戸2」は台湾からの団体客でにぎわった。台湾の保険会社の報奨旅行で来日した約700人だ。ステーキバイキングの夕食を楽しみながらの1時間半、あちこちで記念撮影が続いた。
お目当ては、海から見る世界最長のつり橋、明石海峡大橋だ。各都市が集客に躍起になる時代にあって、港は「神戸ならでは」をアピールできる観光スポットなのだ。
ミナト神戸の魅力づくりに観光業者や行政が連携する「YOKOSO(ようこそ)みなとまち神戸コンソーシアム」は、観光客を繁華街から港へ導く方法を模索する。代表を務める早駒運輸社長渡辺真二(47)は言う。「貨物が出入りする物流とともに、多くの人が行き交う『人流』を盛んにする。これが神戸港、ひいては地域の再生につながる」=敬称略=
(石沢菜々子)
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〈クルーズ船〉外国船の神戸港入港は、東日本大震災で落ち込んだものの、増加が目立つ。国土交通省によると、神戸は2013年で全国6位。国内船も含めると計101隻で全国2位。1位は横浜の152隻、3位は石垣島の65隻。
2014/7/1