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 昨年3月。国会図書館(東京)が、東日本大震災に関する記録を一元的に検索できるインターネットのポータルサイト「ひなぎく」を公開した。

 自治体や研究機関、ボランティア団体などが持つ記録を横断的に検索、閲覧できる「窓口」だ。連携するデータは約267万件に上る。「地震や津波、原発災害の記録を収集、保存、公開する」という政府の復興基本方針を受けた事業だ。

 同館は、震災関連の動画や写真の収集も独自に手掛ける。

 「災害に限らず、資料保存はインターネット時代ならではの方法が求められている」。同館電子情報部主任司書の諏訪康子(49)は言う。

 ネットを活用したデジタル情報保存の取り組みは、震災直後から同時多発的に生まれた。

 検索大手のヤフーは2011年4月、被災当時の様子や復興過程などの写真の提供を呼び掛け、公開する「写真保存プロジェクト」を開始。グーグルも同年5月、投稿写真や動画を共有する「未来へのキオク」を始めた。いずれも、ひなぎくの検索と連携している。

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 自然災害は有史以来、石碑や文書などさまざまな形で残されてきた。その量が飛躍的に増加したのは、阪神・淡路大震災だった。

 「多くの人がワープロやカメラを持つようになっていた阪神・淡路では、市民も『記録しなければ』との思いに駆られた」と帝塚山学院大学人間科学部教授の渡邊隆弘(52)=図書館情報学。

 記録への欲求は、官民を問わず、あらゆる団体が記録集を残していることからもうかがえるという。

 東日本大震災は、情報機器のハイテク化がさらに進む中で起きた。市井の人々が被災状況を克明に記録するだけでなく、ネット上で自ら発信している。

 だが、その活用には多くの課題がある。

 被災自治体に代わり、復興過程を記録する活動「311まるごとアーカイブス」を進める立教大学社会学部教授の長坂俊成(52)=防災危機管理=は「社会で共有すべき財産が、権利関係で利用を制限されてしまっている」と嘆く。

 せっかくの写真や映像も、防災教育などで二次利用しようとすると肖像権や著作権が壁になる。何げない街の風景も、住民の顔や車のナンバーなどが写り込んでいると活用が難しい。テレビ局が所有する映像なども、簡単には使えない。

 長坂は、東日本大震災関連の著作物について、制限を設けず利用できる特例措置を提案する。「震災の経験を広く伝えたい」という被災地の意向に対応できる仕組みづくりを求める。

 膨大なデジタル情報を収集、保存するだけでなく、どのように有効活用するのか。新しい記録の形は、これまでにない課題も生んでいる。

=敬称略=

(黒川裕生)

2014/7/15
 

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