福島原発事故が起きたとき、「こんなに呆気(あっけ)なく起こるのか」と一瞬驚いた。
だがすぐに、マーフィーの法則の「起こる可能性のあることは、いずれ起こる」を「すぐにも起こる」に変えるべきだと思った。
古代の貞観地震の研究から巨大津波の可能性が認識され始めていたのに、誰もすぐに現実化するとは考えなかった。大被害を生じる現象は、「すぐにも起こる」を前提にして予防原則を徹底すべきだ。
地震研究者として、地震列島の海岸線に50基以上の原子炉を林立させたのは、大自然への無謀な挑戦だと考えていた。福島原発事故は、当然の帰結として日本人がその戦いに敗れたという、歴史の必然だろう。
震災論は、突き詰めれば文明論に行き着く。私たちは、経済成長至上主義の是正、自然エネルギーの活用拡大など、自然の摂理に逆らわない新たな文明を築くべきではないか。
阪神・淡路大震災の後「神戸はもう当分、大地震が起きない」という声があったが、今後50年ぐらいでみれば再び強い揺れに襲われる可能性がある。
あのとき解放された地震エネルギーは局地的で、山崎、上町など周辺の活断層は、むしろ大地震の危険性が高まったと考えられる。
そして、南海トラフ巨大地震が最大規模で起これば、「西日本大震災」は避けられないだろう。
(聞き手・木村信行)
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阪神・淡路大震災から20年になる。
あふれる物に囲まれて暮らしてきた。震災でシンプルライフの貴さに気づいたはずだが、結局、大量生産、大量消費、大量廃棄の生活に戻ってしまった。
阪神・淡路は「分散型国土」を目指すきっかけにできたはずだ。人が都市に集中すると無理な土地利用をせざるを得ない。広島の土砂災害はその一例ともいえる。神戸・阪神間は同じリスクを抱えている。
1997年以来、「原発震災」を警告してきた。
地震で原発事故が起こり、通常の震災と放射能災害が複合する破局的災害を「原発震災」と呼んだ。
きっかけは阪神・淡路大震災だ。その5カ月前に出版した「大地動乱の時代」(岩波新書)で耐震工学にいくつか疑問を呈したが、起きないはずの液状化など、懸念どおりになった。それで、心配なことを指摘するのは大事だと思った。
「危険は事前に教えて」という被災者の痛切な声も聞いた。
著書に書き損ねたことはないか考えてみた。すぐ浮かんだのが、気になりながら触れなかった原発だ。
地震学の目で調べてみると、原発の地震対策はひどいものだった。地震現象をよく知らない原子力の人々が「絶対大丈夫」と言っているのに驚いた。
だが、原発震災は荒唐無稽とされた。メディアも安全神話を批判できなかったのは残念至極だ。
「西日本大震災」とは、どのような災害か。
南海トラフ巨大地震は、東日本大震災より激しい震災をもたらすだろう。
地下の震源断層面が陸域直下にも広がっているから、激烈な揺れが西日本の広範囲で1分近く続く。その後、長周期の大きな揺れが5~10分続き、さらに巨大津波が房総から九州までを襲う。
名古屋・大阪をはじめ多くの都市は地盤が悪いから、神戸のような被害が多発する。超高層ビルやコンビナートの被害も多く、津波被害も東日本大震災以上だろう。地盤の隆起・沈降、液状化、山地災害も各地で起こる。私は「超広域複合大震災」と呼んでいる。救援は期待できない。
南海トラフ巨大地震の前後に内陸大地震が近畿地方などを襲う可能性もある。復旧が終わらないうちに次の大地震が起こるかもしれない。歴史をみると、豪雨災害と重なった例も多い。
私たちはどのような社会を目指すべきか。
過密と過疎が震災を激化し、復旧・復興を困難にする。人口減少時代に向かって、都市への集中と過疎地の切り捨てを是とする意見もあるが、危険で傲慢(ごうまん)な考えだと思う。さまざまな困難はあるが、多様な日本列島の各地の特性を生かして、風土に密着した分散型の国土・社会を目指すべきだろう。
原発依存や、リニア新幹線による三大都市圏への集中に象徴される経済成長至上主義を見直すべきだ。政財界人の多くが国土の自然条件に無関心なのが問題だが、市民が正していくべきだと思う。それが地震対策の根本につながる。
記事・木村信行 写真・小林良多
いしばし・かつひこ 1944年、神奈川県出身。神戸大学名誉教授。著書に「阪神・淡路大震災の教訓」「原発震災-警鐘の軌跡」「南海トラフ巨大地震-歴史・科学・社会」など。専門は地震学、歴史地震学。神戸市在住。
2014/9/21