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明石歩道橋事故21年、遺族「悲しみ区切りつかず」 絶えぬ事件事故、被害者への連帯の思いも語る

2022/07/21 22:18

 2001年に兵庫県明石市・大蔵海岸の花火大会に訪れた見物客11人が群衆雪崩で亡くなった歩道橋事故は21日、発生から丸21年を迎えた。現場には次々と市民らが献花に訪れたほか、市職員の研修もあった。事故の風化や同様の事故の再発を防ごうと、さまざまな取り組みが続いている。

■遺族がつづる「あの日」から 書籍に込めた思い

 遺族有志は今夏、これまでの道のりを記録した書籍「明石歩道橋事故 再発防止を願って」を刊行した。事故そのものを知らない人が増える中、記憶をつなぎ止め、教訓が生かされることを願っている。

 長女千晴さん=当時(9)=と長男大さん=当時(7)=が犠牲になった有馬正春さん(63)、友起子さん(52)夫婦は「毎日忘れることはない。事故当時を思い出さないようにしていても意識がいきそうになる」と話し「出版によって、あの日起こったことが誰にでも見られるようになったと思う。本が世の中の役に立ってほしい」と願う。

 あの日、明石署の雑踏警備計画書では歩道橋に警察官が1人も配置されなかった。母トミコさん=当時(75)=を亡くした白井義道さん(62)は兵庫県警が事故後作った歌「ざっとうの詩~絆」に触れ「『子供さんとしっかりと手をつないで走ったりせずに』『あぁゆっくりと進んで下さい』と歌うが、遺族はあの日そうしていた。事故が起きた本質が理解されていない。警察に本を読んでもらい、どう思うか問いたい」と語る。

 次男智仁ちゃん=当時(2)=を亡くした下村誠治さん(64)は「何年たっても遺族は悲しみを克服できず、区切りもつかない」。北海道・知床半島沖で起きた観光船沈没事故の乗客家族を支援しており、被害者への誹謗(ひぼう)中傷対策を国に訴える。「被害者が苦しむ姿を見ると、気持ちが分かり過ぎてつらい。そんな社会は終わりにしないと。これは自分のためでもある」。

 21年という歳月に「いろんな事件・事故が絶えない中、風化は避けられない」としつつ「主催者の市や警備を担った警察は忘れてはいけない。本当の謝罪は当事者が再発防止に取り組むこと」と話した。(松本寿美子)

■明石市の新人職員、現場で安全研修

 明石市は「市民安全の日」の21日、事故防止や安全文化などについて学ぶ職員研修会を開いた。今年入庁した職員約50人が参加した。

 市民安全の日は、歩道橋事故があった7月21日に合わせて設定。市は例年研修会を開いている。

 まず、事故当時に大蔵海岸の現場近くにいた市職員から話を聞いた。裁判の判決などを踏まえて当時の明石市の取り組みについて「極めて無責任」と指摘。歩道橋事故と同じ年に発生した大蔵海岸砂浜陥没事故にも触れ「いつでも危険はあると認識すべきだ。努力を怠ると事故につながる」と強調した。

 また、2歳の次男を亡くした下村誠治さんが、群衆雪崩があったJR朝霧駅(同市朝霧南町)南の歩道橋で、市職員らに当時の様子を伝えた。下村さんは新型コロナウイルスの感染拡大や自然災害にも触れ「市の職員として、事故などが起きる可能性を少しでも感じたら、周囲と共有してほしい」と訴えた。

 研修を受けた生活福祉課の松本あいさん(22)は「事故のことを風化させずに、市民の安全を考えられるようになりたい」と話した。(有冨晴貴)

■市役所で一斉黙とう

 市役所では正午、職員が一斉に黙とうした。

 「お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りするとともに、さらなる安全・安心のまちづくりを誓い、黙とうをささげます」

 庁内放送が流れると、職員は起立し、目をつぶってこうべを垂れた。

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