姫路の鯱(しゃちほこ)は雌ばかり? 世界文化遺産・国宝姫路城で、「平成の大修理」から全容を現した大天守の鯱瓦(しゃちがわら)について、そんな話題が広がっている。鯱瓦は城の象徴ともいえる意匠で、通常は雄と雌とで一対になっているという。ところが、姫路城大天守には雄が一尾もいないとか。この不思議な説の真相やいかに‐。(仲井雅史)
鯱は、頭が虎、胴体が魚のような想像上の生き物。火よけの霊験があるとして、城郭建築に取り入れられたとされる。仁王像や狛犬(こまいぬ)などのように「阿吽(あうん)」一対になっており、口を開けているのが「阿」で雄、閉じているのが「吽」で雌とされる。
復元ではない「現存(げんそん)天守」の松江城、著名な名古屋城の金のしゃちほこも、雌雄ペアで紹介されることが多い。口の開け方のほか、雄はうろこが荒いなど造形的にも異なる。
姫路城大天守には計11尾の鯱が載り、全て「昭和の大修理」で取り換えられた。「昭和の鯱」は、同城で現存最古の1687(貞享4)年の鯱瓦がモデル。ところが、この「貞享の鯱」はなぜか1尾のみで、一対としては残っていなかった。これを基にした結果、11尾全てが同じ形になってしまった。
造形の比較対象がないため、貞享の1尾が雌雄どちらかは定かではない。だが、口を閉じているように見えることや、当初置かれていた方向(西)などから、雌との説が流布しており、「11尾全てが雌」説が広まったようだ。
「平成の大修理」は、大天守で最も高い位置にある大棟の一対だけを交換。これも「貞享の鯱」を踏襲し、2尾とも同じ形に。「平成の大修理で雌雄一対に戻してほしかった」と、城ファンから残念がる声も漏れる。
しかし、「確実な資料がないものを想像では作らない。文化財の原則」と姫路市城周辺整備室の小林正治さんは話す。今後、実物や絵図などで一対の造形が見つかれば、晴れて雌雄が復活する可能性はあるという。
白亜の姿を取り戻した大天守。城のてっぺんを見上げ、鯱の雌雄を論じるのも一興かもしれない。