教育

教育ニュース
  • 印刷
神戸大副学長(経営学研究科教授)國部克彦さん=神戸市灘区、神戸大学(撮影・後藤亮平)
拡大
神戸大副学長(経営学研究科教授)國部克彦さん=神戸市灘区、神戸大学(撮影・後藤亮平)

 神戸大学は今年4月、「バリュー(V.)スクール」と名付けた新たな教育プログラムを始める。全学部の学生、大学院生から希望者を募り、社会課題の解決や新産業の誕生につながるイノベーション(技術革新)について、さまざまな視点から考える。将来構想の目玉と位置付け、開校120周年の節目となる2022年には専用の建屋を完成させ、社会人向け講座も展開する計画という。統括する國部克彦副学長は「世界初の体系化された価値創造教育になる」と話す。多くの企業人を輩出してきた大学はどう変わるのか、その狙いを聞いた。(内田尚典)

 ー新しい取り組みの背景について教えてください。

 「日本経済は失われた20年、30年ともいわれ、閉塞(へいそく)感が高まっています。社会を根底から変えるイノベーションが起こりにくく、グーグルやアマゾンなど米国の巨大IT企業に牛耳られています。少子高齢化や地方経済の疲弊に対しても有効な策を打てていません。人々が抱く将来への希望や期待を捉え、資金を集めようとする活動が不十分だからです。既存の需要や技術の延長線上で考えるだけでは限界があります」

 「そこで、こうした問題を受け止めるプラットフォーム(基盤)が大学に必要だと考えました。国からも、イノベーションの創造の強い要請があります。22年から始まる国立大学法人の次の評価期間で、V.スクールを本格化させます。今後2年間は試行期間です」

 ーなぜ神戸大で?

 「いくつかの流れがあり、一つは16年に前学長の肝いりで設置した科学技術イノベーション研究科です。医学や工学、IT、起業などの先端分野を集めて事業創造を担える理系の人材を育てており、文理融合研究の象徴となっています。もう一つは、工学研究科の教員が中心となり、やはり文系と理系の枠を超える研さん活動、未来社会創造研究会(通称・未来道場)です。これらを広げ、全学を横断する教育研究組織をつくります」

 ー自身の経営学の研究はどう関係しますか。

 「以前、環境と経済の両立を中心に研究していました。いいキャッチフレーズですが、現実は難しい。コンビニの袋を有料化して減らしても、プラスチックの消費量のいくらにもならない。そういう壁はたくさんあります。ではどうするか。現在、提唱している考え方は『創発型責任経営』です。責任の概念を、相手から何かを求められたときにそれをできる能力があることだと広く捉え、経営に当たると、取り組むべき社会課題がおのずと見つかっていくという研究です。V.スクールに結びつく部分です」

 ーどんな授業になるのでしょう。創発とは聞き慣れない言葉ですが。

 「価値の創発と設計の過程を、順を追って学びます。創発とは、さまざまな要素が相互作用を起こし、事前に意図されていない効果を生みだすことです。自らの専門分野から社会課題を広く見渡し、何が重要か議論する中でそれまで考えていなかった価値が出てくるのです。研究を通じて持っている技術を生かそうとするシーズ志向とは異なります」

 「次の段階では、創発された価値を製品やサービスにして市場に出す手法が必要です。事業戦略や資金調達が欠かせず、これらが価値の設計です。当面、週4こまを充て、講義に加え、大小の企業やNPO法人などの協力で演習をします。さらに各研究科で関連する講義を設けます」

 ー受講する学生のメリットは?

 「参加した学生のうち、年間30人程度に認証を出す予定です。価値創造の能力があることを示すことで、企業に就職しやすくなったり、何らかの事業活動に取り組む際に支援を得られやすくなったりすることを期待しています。ゆくゆくは学位にできればと考えています」

 ー外部の反応はどうですか。

 「企業の関心は高く、求められていると感じます。日本企業は決められた事業を効率的に進めるのは得意です。しかし、ほとんどの経営層が思っているのは、今やっている事業はいずれ廃れるということです。常に新しい事業を開拓しなければなりませんが、学ぶ場は不足しています。神戸大の経営学修士(MBA)も従業員のモチベーション向上や財務手法などに関する内容が多く、価値の創発のような側面を織り込んだ教育は、体系的に行えていませんでした」

 ー人気は高まるでしょうか。

 「大学間競争の切り札になればと期待しています。学内活性化の鍵を握る組織にもしたい。歴史をひもとくと、京都と大阪に帝国大がある中であえて官立の神戸高等商業学校が大学へと格上げされた。応用領域での奮闘を期待されたからです。価値創造はまさに応用であり、伝統を踏まえた挑戦です」

 ー地元経済への貢献も期待できそうですね。

 「神戸はかつて日本最大の港で、重厚長大をはじめとする日本の基幹産業が阪神工業地帯に集結しました。その流れが今もあり、新たに医療産業の集積やベンチャーの誘致・育成が進んでいます。相対的に地位が低下したとはいえ、神戸は国内有数の都市です。それでいて東京や大阪ほど大きくなく、行政と市民の距離が近い。社会課題を解決するさまざまなアイデアを試す場として、ちょうどよいのではないでしょうか。ぜひ連携したいと思っています」

【こくぶ・かつひこ】1962年兵庫県西宮市生まれ。大阪市立大学博士(経営学)。神戸大経営学部助教授などを経て、2001年同大大学院経営学研究科教授。19年副学長。著書は「創発型責任経営」など。

<ひとこと>国や自治体がベンチャーの誘致、育成に力を入れる時代だ。会社に入るか、事業を起こすか。「多様性が人生の豊かさや幸せにつながる。みんな同じ価値観だと社会が硬直化する」と國部教授。納得。

教育の最新
もっと見る

天気(4月8日)

  • 19℃
  • ---℃
  • 20%

  • 21℃
  • ---℃
  • 30%

  • 20℃
  • ---℃
  • 10%

  • 21℃
  • ---℃
  • 20%

お知らせ