クマによる人的な被害が各地で続発している。本年度、クマに襲われて亡くなった人は10人を超え、過去最多となった。負傷者は100人を上回る。登山や山菜採りで山に入った人だけでなく、住宅地で遭遇した人も少なくない。被害拡大が目立つ岩手、秋田、長野県などでは中心市街地にも出没し、盛岡市では岩手銀行本店の地下に居座った。学校にも侵入して教育に影響が出ている。
東日本を中心にクマの個体数が増加し、餌となるドングリなどの凶作が重なったことなどが原因とみられる。人の生活圏がクマに脅かされ、多くの住民が不安を抱きながらの生活を強いられる事態はまさに災害級であり、深刻と言うほかない。
政府は10月末に環境省、警察庁など8省庁の閣僚会議を開いた。5省庁で構成する従来の連絡会議に防衛省、文部科学省などを加えて格上げした。会議では、捕獲者の確保を補正予算案に盛り込むことや適正な個体数の管理に取り組む方針が示された。警察官によるライフル銃を使用した駆除も検討する。
政府の対応強化は遅きに失した感が否めない。都道府県などと連携しながら、国民の安全を守る実効性のある対策を急いでもらいたい。
各自治体は駆除などの対応に手が回らない状況だ。秋田県が「未曽有の危機」として自衛隊の派遣を要請したのに対し、防衛省は協力する方針を決めた。箱わなの運搬などの支援が期待される。ただ、自衛隊は野生生物の殺傷などを法令上想定していない。支援活動の範囲を明確にしておく必要がある。
今年9月、自治体の判断で市街地での発砲を可能にする「緊急銃猟」が始まった。仙台市などで制度に基づく駆除が実施され、人的被害を防ぐ具体策の一つとなっている。
課題となるのは専門的な人材の確保である。これまで駆除を担ってきた猟友会のメンバーが高齢化しており、担い手が不足している。北海道には、職員が狩猟免許を取得して鳥獣管理を担当する自治体もある。こうした「ガバメントハンター」など専門職員の育成が急務だ。財政面も含めて国の支援が求められる。
兵庫県でも淡路島を除く広範囲でクマが出没し、豊岡市では負傷者も出ている。目撃情報のある姫路市では緊急銃猟の体制を整え、神戸市も近隣市町でクマの痕跡が確認されているとして注意を呼びかける。
クマの行動が活発になる秋の飽食期はまだ続く。山に入るときは音の出るものや撃退スプレーの携行が欠かせない。万一襲われたときは体を丸め、うつぶせで首や頭、腹部を守るのが有効とされる。私たち一人一人が自らを守る意識を強めたい。

























