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 税収が伸び続けても、借金の山はいっこうに減らない。それが日本の財政の現実だ。

 政府がきのう閣議決定した2026年度当初予算案は一般会計の歳出(支出)総額が122・3兆円となり、過去最大を2年連続で更新した。税収は83・7兆円と25年度を5・9兆円上回り、7年続けて過去最高を更新する見込みだが、政策の支出に充てる財源を賄えず、新たに29・5兆円の国債を発行する。発行済みの国債の返済や利払いに充てる国債費は31・2兆円と、金利上昇も響いて3兆円増える。

 高市早苗首相は自ら掲げる「責任ある積極財政」に沿い、「経済成長につなげ税収増で財政規律を維持する」と強調したが、国債の残高は26年度末で1145兆円を超える。「責任」を果たすべき対象は、今を生きる世代だけではない。そのことを忘れてはならない。

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 地方交付税交付金と国債費を除く支出は70・1兆円で2兆円増える。物価や人件費の上昇で膨らんだ。

 社会保障関係費は39兆円と0・7兆円の増加となった。高齢化による医療費などの自然増に加え、診療報酬のうち医師の人件費などに当たる「本体」部分を3・09%引き上げる。3%台は30年ぶりの高水準だが、物価高に苦しむ医療施設の経営が好転に至るとまでは言い難い。

 防衛費は0・3兆円増の9兆円で過去最大となる。攻撃型を含む大量の無人機で沿岸部を防衛する体制の構築に0・1兆円を投じるほか、反撃能力(敵基地攻撃能力)の手段となる長射程ミサイルを取得する。

 23年度から5年間と定めた防衛力強化期間は4年目に入るが、使い残しも指摘される。強化ありきで聖域扱いせず、専守防衛を貫く上で必要性の精査が欠かせない。

 海外頼みのレアアースの国内開発を探る「危機管理投資」や、外国人の出入国管理の適正化など、高市色がにじむ項目も増額となった。過去には補正予算で手当てされる場合が多かっただけに、十分な時間が割かれる当初予算案の国会審議で内容を吟味してもらいたい。

■財源論欠く政策協議

 政権基盤が盤石でない政府、自民党にとって、今回の予算編成の主眼は連立を組んだ日本維新の会に加え、野党をいかに取り込むかにあったと言える。

 「年収103万円の壁」の引き上げは国民民主党などの要求を全面的にのみ、立憲民主党などが掲げたガソリンの暫定税率撤廃や、維新が求めた教育無償化にも応じた。しかし必要な財源をどう確保するかの協議は深まらないままだった。

 暫定税率撤廃と教育無償化の実施に伴い国と地方で2・2兆円が不足する。予算案では歳出全体の見直しや賃上げ促進税制の対象絞り込みで1・44兆円を穴埋めするものの、残り0・76兆円はめどが立たず、27年度の検討課題に先送りされた。一時しのぎのやりくりではなく、与野党ともに恒久財源の確保策を真剣に考えるべきだ。

 自民は今夏の参院選で大敗を喫し、公明が政権を離脱すると維新との連立を選んだ。野党の一部は、政策の実現へ政権との距離を縮めようと躍起な印象が否めない。

 国民民主は当初予算案の中身も示されていない段階で「103万円の壁」の引き上げ実現などを理由に、予算案の早期成立に協力する意向を示した。野党の重要な役割であるチェック機能の放棄と言っていい。

■円安加速を懸念する

 政府は物価高対策も今回の予算編成の重要なテーマに掲げる。所得制限を設けない教育無償化で学費などの負担が減り、物価上昇率が抑制されるとの見方もある。

 だが、現在の物価高の大きな要因は円安がもたらす輸入品の値上がりだ。巨額の国債を抱える財政の持続性に市場が疑念を抱き、円が売られやすくなっている。

 有権者の受けがいい政策を各党が競い合う状況が続く限り、財政の膨張には歯止めがかからなくなる。その結果、市場の信認が失われ、円安がさらに加速して物価を引き上げる事態も懸念される。

 巨額の国債のしわ寄せは将来世代に先送りされるだけではない。今の国民生活にも重荷になっていることを、認識しておきたい。

 与野党が取り組むべきは財政健全化への努力を重ね、国会で予算の使途を検証することだ。物価高対策と称して「ばらまき」を重ねるほど、物価高の解消は遠のきかねない。その矛盾を直視する必要がある。