問われているのは、単に不便さの解消ではない。結婚による改姓の不利益が女性に偏っている状況を是正し、個人が尊重される社会をどう築くかということだ。
政府は2026年度から5年間の女性政策の推進目標をまとめた「第6次男女共同参画基本計画」を閣議決定した。旧姓の通称使用拡大へ向け、公的な証明書などに旧姓のみを記載する「単記」を可能にする法制化の検討を明記した。選択的夫婦別姓の導入に強く反対する高市早苗首相の意向が反映された。
現行制度でも住民票やパスポートなどに旧姓を記載できる。ただし、戸籍名と併記する必要がある。首相は旧姓使用の法制化で事足りるとの考えだろうが、「婚姻前の姓を名乗り続けたい」と願う人にとっては根本的解決にならない。旧姓の単記が可能になっても、1人が二つの名前を使い分ける煩雑さは変わらない。自治体や企業は名前を二重管理する手間と費用が求められるだろう。
しかも、先の衆院予算委員会で首相は「厳格な本人確認に用いられる運転免許証やマイナンバーカードは併記を求める検討が必要」と答弁した。単記を認める範囲はかなり限定されそうだ。何のための法制化なのか理解に苦しむ。
旧姓使用の拡大を理由に、選択的夫婦別姓の議論を幕引きするようなことがあってはならない。
夫婦同姓を義務付ける国は日本だけである。夫婦の9割超は妻が夫の姓になっており、男女間の不平等を表している。改姓はアイデンティティーの喪失やキャリアの断絶につながるとして、選択的夫婦別姓を求める声は根強い。経団連もビジネス上のリスク回避の観点から早期導入を要請している。
しかし、政治は背を向け続けてきた。法制審議会は1996年に選択的夫婦別姓の導入を答申したが、問題解決を棚上げしたままだ。反対派は「家族の一体感が薄れる」などと主張しており、代表格の一人が高市氏である。
閣議に先立って昨年12月に開かれた政府の男女共同参画会議には、首相も出席した。第6次男女共同参画基本計画の答申案が示されたが、審議内容になかった旧姓使用の法制化検討が急きょ盛り込まれ、会議のメンバーの反発で答申がいったん見送られる異例の事態となった。
自民党は2月の衆院選で旧姓法制化を公約に掲げた。圧勝したからといって、丁寧な議論を抜きに主張を押し通すことは容認できない。
同姓の強制は結婚への障壁になっているとも指摘される。選択的夫婦別姓は時代の要請だ。導入に向け、政治は動き出さねばならない。
























