弘明は幼いころ、自閉傾向を指摘された。小学校では特別支援学級に通った。
こだわりが強く、共同作業は苦手。黒か白かで、グレーはない。ストレスをため込むと爆発した。親は理解できなかった。育てられず、専門の施設に預けた。
弘明は苦しんだ。「なんで自分はここに入れられてるんや」。周囲から白い目で見られていると思い込んだ。その後、尼学に来ても、親を恨み続けた。
弘明自身、特性を理解できていなかった。職員の大庭英樹が言う。「車で言えば、ブレーキに遊びがないんです」
ある日、アルバイト先で上司がバイトの女子の頭をなでていた。嫌がっているように見えた。「セクハラだ」。正義感は強いが、正す術(すべ)が思いつかない。そのまま、辞めた。
ちゃんとしたいのに、できない。自信を失っては自分を否定し、「死にたい」と口にした。ずっとそういう人生だった。
でも、尼学の子たちは弘明を必要とした。優しく、人を悪く言わない彼を慕い、頼った。職員も同じだった。いてもいい場所がある。人に認められている。そう実感できることで、弘明は少しずつ自分を見つめ始めた。
最近、たびたび尋ねるようになった。「俺の考え方って人と違うよな」。大庭が返す。「人と違うのは悪いことじゃない。人よりすごいこともある」
変化も見えてきた。バイトが続くようになった。高校を受け直すと決意した。「社会の役に立ちたい」「生きたい」と思うようになった。
大庭は思う。何度失敗してもいい。ここにいる間に何ができるかを学んでほしい。焦る弘明に声を掛ける。「まだ時間はある。ゆっくりやったらええ」
(敬称略、子どもは仮名)
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