尼学に帰ってくるなり、高校生の美月がユニットの職員に報告した。「行ったとこ、当たりや」
夏休みを利用した企業でのインターンシップ。銘板のデザインを手掛ける受け入れ先の会社を気に入ったという。仕事中、社員におやつを配り歩く社長の気さくさも。3日間の体験で手応えを感じた。
人見知りだがおしゃべり好き。何事にも真面目に取り組む。高校では就職に向けて資格取得に励み、部活動では全国大会にも出場した。毎日が充実している。
幼いころは全く違った。周囲と打ち解けられず、泣いてばかりいた。副園長の鈴木まやが「当初は予想できないほどの成長ぶり」と振り返る。そこには「被虐待児等個別対応職員」と呼ばれる人の支えがあった。
その職員は幼少期から1対1で向き合った。美月が海水浴で水を怖がれば、砂浜で遊んだ。1人だけ食事が遅れても、終わるまで見守った。勉強は苦手だったが、「この子は努力を嫌がらない」と2人で机に向かった。美月に、初めて信頼できる大人ができた。
鈴木は「愛着関係を結べている」と言う。例えば公園で子どもが転ぶ。ベンチにいる母親の元に駆け寄り、「痛かったね」となでてもらうことで、涙をふいて再び駆けだせる。危機状態を回避できる「安全基地」がある。それが愛着関係だと。実際の親子ではないけれど、これがあるから美月は足を踏み出せる。
2学期直前、美月がステンレス製のプレートを持って帰ってきた。かわいいキャラクターが彫られている。インターン先で自作した。「社長が『いつでも来ていいよ』やって」。回転椅子を揺らしながら、顔をほころばせた。「将来どうしよかなー」(敬称略、子どもは仮名)
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