夕食後、職員の大庭英樹がプリントした写真をテーブルに置いた。「好きなように切ってやー」。男の子たちが次々手に取る。「このアングル、ええやん」「俺のかわいい寝顔見せてー」「あー、プール楽しかったな」
年に1度のユニット旅行。各ユニットで話し合い、1泊2日の行程を決める。大庭が担当するユニットは今年、伊勢志摩を訪れた。プールに温泉、遊園地、カラオケ、マグロの食べ放題。みんなの希望が凝縮された2日間だった。
それぞれが気に入った写真を夢中で切り取る。職員にご飯を「アーン」してもらう小学生。プールではしゃぐ中学生。ジェットコースター後の泣き顔や、車内の寝顔。生き生きとした表情写真がテーブルに並ぶ。
今回はすべて高校生の弘明が撮影した。直前に中古のコンパクトデジカメを小遣いで買った。撮影数は200枚以上。でも、自分が写ったものは一つもない。「撮る役やってたら、自分の撮り忘れた」。そう言った後、「でも、いいんです。めっちゃ楽しかったから」と笑った。
ユニット旅行は偶然施設で暮らすことになった子たちと、担当職員が関係性を深める貴重な機会。家族がどんなものかを知らない子もいる中で、それに似た時間を体験してほしいという尼学側の思いが詰まっている。
大庭は言う。「子どもらは僕の育て方や方針はよく知っているけど、僕が普段どんな風に生活しているかは知らない」。だから一緒に風呂に入り、同じ空間で寝る。毎年の旅を通して、それぞれの「素」を知っていく。「今は非日常の時間。でも互いにいろいろな経験を重ね、特別な時間でなくなればいいなと思うんです」(敬称略、子どもは仮名)
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