きょうからできる認知症対策
認知症について、神戸大教授らに対策を聞くシリーズ。1回目は、認知症とはどういった病気なのか、家族はどう対応すればいいのかについて紹介しました。いったん発症すると治療が難しいとされる認知症。将来のリスクを減らすために、できることはあるのでしょうか。前回に続き、神戸大大学院保健学研究科の古和(こわ)久朋教授(47)に、認知症の発症を遅らせるために気を付けたい生活習慣などについて聞きました。(聞き手・貝原加奈)
■若いうちから生活習慣見直し
-認知症に予防的取り組みは有効ですか。
「アルツハイマー型についていえば、遺伝的要因と環境要因で発症します。何か一つの要因で決定的に発症することはまれです。遺伝的要因は変えられませんが、環境要因では、糖尿病や高血圧、メタボリック症候群、喫煙者らの発症リスクが高いことが分かっています。さらに、アルツハイマー型は約50年で急激に増えました。寿命が延びたことも一因かもしれません。ただ、日本人の遺伝子が大きく変わったとは考えにくいので、食生活を含め生活環境の欧米化が少なからず影響しているはずです。とすれば、生活習慣を見直すことで、予防効果を見込めると言えるのではないでしょうか」
-なぜ、予防的取り組みが大切なのでしょうか。
「認知症の薬に関しては多くの治験が行われていますが、芳しい結果は得られていません。開発が進む『アルツハイマー型』の薬の場合、7年の進行を8年に延ばす程度で費用も高額です。『レビー小体型』は症状を抑える薬が比較的効きやすいですが、『前頭側頭型』も含め、発症の仕組みがよく分かっていません。当面20年先まで薬で解決するのは難しい。だから、今できることから始めるのが賢明なのです」
-発症の原因は何でしょうか。
「アルツハイマー型の原因の一つとして、脳内のタンパク質(ベータアミロイド)が集まってできる『老人斑』と呼ばれるシミが挙げられます。これは、発症の20年も前から、脳内でたまり始めることが分かっています。ですから、70代になって対策を始めるのではなく、40~60代から生活習慣を見直すことが重要で、効果が大きいと言えます」
-発症を遅らせるために、何に気を付ければいいですか。
「加齢とともに脳に蓄積されるベータアミロイドは、睡眠中に血液から脳の外に排出され、肝臓などで分解されるので、質のよい睡眠をとることが大切です。また週3回、1回50分以上、脈拍が2割上がる程度の適度な運動もよいでしょう。はや歩きがお勧めです。通勤や買い物の時間をうまく利用したいですね」
-もちろん食事も大切ですよね。
「食事は、地中海食がいいと言われています。不飽和脂肪酸を多く含むオリーブオイルや青魚、野菜、豆、ポリフェノールを含む赤ワインやカレー、緑茶の摂取がポイントです。特にポリフェノールには脳の老人斑を壊して消し去る可能性があります。認知症だけでなく、がんや生活習慣病など加齢で起こりやすい病気への対処にもなります」
-脳トレーニングが効果的との声もありますが。
「誰もが脳の1~2割だけを使って、残りは活用せずに過ごしています。普段から脳を鍛えておけば、多少老人斑ができて脳の機能が落ちても、年齢的に要求されることはできます。ただ、学習ドリルもいいですが、長く楽しめる趣味や友人とのおしゃべりの方がより効果的です。ストレスをためないことも大事です。一方で、認知症になった時の備えも必要です。家族と日頃から本音で語り合うことがその一助になるでしょう」
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