きょうからできる認知症対策

(10)周囲の人はどう接したらいい?

2018/08/22 11:29

 認知症について、神戸大教授らに対策を聞くシリーズ。前回は早い段階で軽度認知障害のサインを見逃さない方法などについて紹介しました。では、認知機能の低下に気付いたら、身近にいる人はどう対応すればいいでしょうか。前回に続いて神戸大大学院保健学研究科のグライナー智恵子教授(52)に適切な接し方を聞きました。(聞き手・貝原加奈)

 -周囲の人の接し方が大切なのはなぜ。

 「認知症には記憶障害など必ず現れる中核症状と、『認知症の行動・心理症状(BPSD)』と呼ばれる周辺症状があります。幻覚や暴言、抑うつなどで、どのような症状が出るかは個人差が大きいですが、本人も介護者も悩まされることが多いです。不安や疎外感などから起きる行動の意味を考えず、こちらの視点で判断して接すると、悪循環になって症状が進行します。反対に、行動の意味を正しく理解し接することで、症状を和らげることが期待できます」

 -例えばどんなケースがありますか。

 「ある施設に入所中の女性で、いつも同じ男性入所者の部屋に入ってしまう人がいました。『あなたの部屋じゃないですよ』と毎回厳しく注意され、攻撃的になっていました。BPSDの症状の一つです。ただ、穏やかに『どうされたんですか』と尋ねてみると『ここにエレベーターがあるはずだ』と言うのです。つまり、女性の感覚では、そこにエレベーターがあって、家に帰ろうとしていたのだと分かりました。『今は建物が違うのでここにはないんですよ』と話すと納得してくれました。身に覚えのないことで叱られると、誰でも腹が立ちますよね」

 -不安を減らすことが大切ということでしょうか。

 「そうですね。なぜそうするのか、何がしたいのか、とにかくサインを見逃さず、じっくり話を聞くことです。本人の習慣や生活史を理解することで声掛けの内容も変わります。やっていた家事はできる範囲でやってもらうと良いでしょう。生活環境や接する人もできる限り変化させないことが大切です。施設などに入所する場合も、自宅で使っていたタンスや食器などなじみのある空間を整えてあげると落ち着きます」

 -仮想現実(VR)の装置を使い認知症看護研修の開発に取り組んでいる。

 「病棟に認知症の人が増え、医療現場でも患者本人の気持ちを知ろうと、本人の視点でどう見えているのかが分かる動画を作成しました。何の飲み薬か分からない、どうして手術が必要なのか理解できない-などといった事例を看護師に体験してもらっています。身体抑制などに頼らず、本人の意思を大切にした看護に変えていけるように研究を進めています」

 -周辺症状を改善するためにできることはありますか。

 「認知機能が低下した状況下でも今まで通りに生活できるよう、先回りして工夫することが大事です。本人が大切にしているものの場所を固定して、何度も確認します。分かりやすい字でものの場所を書いておくと良いでしょう。また、家にずっといると時間や季節の感覚が分からなくなりがちです。昼間に買い物や散歩に積極的に連れ出すのも刺激になります。大きなカレンダーや時計で、日にちと時間を示しましょう。いつも同じものを買ってしまう場合は、『ありがとう』といったん受け止めて、『まだあるから、もう買わなくても大丈夫よ』と優しく声を掛けて。不要なものをリストにして渡すなどしてみてください」

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