恋愛における“普通”とは、一体なんなのか。ジェンダーへの多様な価値観が広がりつつある今は、そうした疑問も浮かんでくる。そんな時代だからこそ、知っておきたいのが性的指向の多様さだ。
漫画家・みやさぎ明日香さん(@miyazaki_aa)は講談社のマンガアプリ・コミックDAYSにて連載中の『人としてつき合えたら』(©みやざき明日香/講談社)でアセクシャルの女性とこじらせ童貞の友情を描き、誰に対しても性的な欲求をほとんど、あるいは全く抱かない“アセクシャル”という性的指向があることを伝えている。
■アセクシャルの女性×こじらせ童貞男子の“友情”を描いたワケとは?
--そもそも、なぜアセクシャルを題材にした漫画を描こうと思われたのでしょうか。
みやざき明日香さん:全く違う作品のネームを持ち込んだ時、担当者さんが私のセクシャリティに興味を持ってくださり、「絶対に恋愛に発展しない男女の友情の物語」を描くことになりました。
恋愛に興味のない主人公が運命の相手に出会い、恋に目覚めていく…というのは恋愛エンタメのセオリーですが、本当に恋愛をしない作品があってもいいのではないかと、ずっと思っていたんです。
--ご自身は、どのようなセクシュアリティなのでしょうか。
みやざき明日香さん:自認はクィアです。女性ですが、肉体に部分的な違和感を持って生きてきました。私の場合は、違和感がある自分の肉体で他者と性的なことをしたいという気持ちがありません。
※クィア…性的指向が同性愛や異性愛など特定の枠に当てはまらず、性自認も男女のような決まった枠に当てはまらない人
--本作では月城という女性キャラがアセクシャルとして描かれていますね。月城を描く上で、どんなことを意識されましたか。
みやざき明日香さん:アセクシャルに関する資料をたくさん読みました。その中では、共感する部分も非常に多くあって。
だから、資料と私の経験、これまでお会いしてきた性的少数者の方々を思い出しながら、月城というキャラを描きました。
--月城さんは作中で、「アセクシャルを自認している人が、みんな私と同じってわけじゃない」と話していますが、具体的にはどのような違いがあるのでしょうか。
みやざき明日香さん:アセクシャルは「誰にも性的に惹かれない人」ですが、ひとりひとりには、グラデーションのようなセクシャリティの違いがあります。
性欲がある方もいれば、ない方もいる。性的な空想をする方もしない方もいる。他者との性行為をする人もしない人もいる。自慰行為をする方もしない人もいる。結婚する方もしない方もいますし、お子さんがいる方もいらっしゃらない方もいます。
--アセクシャルの人、全員が月城さんと全く同じ考え方ではないということですね。
みやざき明日香さん:はい。月城の経験や感覚はあくまでも、月城個人のものです。アセクシャルを自認する方が、みな月城と同じというわけではありません。
■男性性の人が抱きやすい生きづらさも作品に落とし込んで…
--本作では、月城に好意を抱く朝倉という男性キャラをあえて童貞という設定にすることで、「女性経験がなくては…」という男性特有の葛藤や焦燥感も描かれているように感じました。
みやざき明日香さん:実は、男性性に苦悩する描写は担当さん(男性)の指導によるところが大きいんです。
本作には、朝倉の兄・リョウも登場します。朝倉はモテないことがコンプレックスですが、リョウはモテるけど、世の中の「強制的性愛」に生きづらさを覚えているキャラクターです。
リョウは女性を綺麗だとは思うけれど、性的に惹かれず、体が反応しません。
--アセクシャル以外の性的指向を持つキャラも登場するんですね。
みやざき明日香さん:はい。私は自分が社会に乗っていけてないから、男女関係なく、社会に上手く乗っていけない人を描きたいという気持ちがあったので。
--本作は月城と朝倉の友情が成立するのかという点も見どころだと思うのですが、ご自身は実際にどう思われていますか。
みやざき明日香さん:私は男性を性的・恋愛的に好きにならないので、一般的な男女の友情とは少し違うのかもしれませんが、成立すると思っています。
例えば、私に青年漫画誌の面白さを教えてくれたのは男友達でした。
「男性はこう、女性はこう」という決めつけはよくありませんが、男女には差異があって、男性とエンタメの話をすると「そこ気にするのか!?」と驚くことがあり、新鮮で面白いです。
--本作では月城という女性キャラがアセクシャルですが、男女問わず、アセクシャルを自認している方はいらっしゃるそうですね。
みやざき明日香さん:はい。男女問わず、「他者に性的に惹かれないこと」を明かすと、分かってもらえないことが多々あり、否定されることもあります。本作を通して“誰にも性的に惹かれない指向の人”がいると知ってもらえたら嬉しいです。
性的指向の多様さを知ることは、誰かを特別扱いすることではなく、“普通”という言葉の輪郭を少しだけゆるめることなのかもしれない。本作との出会いは、身近な人の価値観をどうしたら尊重できるかを考えるきっかけも与えてくれるはずだ。
(まいどなニュース特約・古川 諭香)

























