円偏光を発する液体
円偏光を発する液体

■らせんの光で新技術を

 私たちの研究室では、「分子」というとても小さな物質を設計し、新しい性質を持つ材料を生み出す研究を行っています。分子は目に見えないほど小さいですが、その形や並び方を工夫することで、光り方や強さなどが大きく変わります。

 特に私たちが注目しているのが「円偏光発光(えんへんこうはっこう)」という光です。これは光が、らせんのように回転しながら進む特別な光で、右回りと左回りがあります。このような光を出す材料は、立体的に見える3Dディスプレーや、偽造防止インク、情報を安全にやりとりする技術などへの応用が期待されています。

 私たちは、「面性不斉(めんせいふせい)」という特徴を持つ分子を用いて、明るく、しかも右または左に偏った光を出す材料を世界で初めて見つけました。また、分子の向きや並び方によって、光の回転方向が制御できることも明らかにしています。

 さらに最近では、分子が規則正しく集まってできる「結晶」の研究にも取り組んでいます。私たちが合成した「面性不斉分子」を用い、筑波大学との共同研究で、その分子がわずか10秒ほどで「おわん」のような形をした非常に小さな結晶になることが発見されました。

 このような結晶は「骸晶(がいしょう)」と呼ばれ、雪の結晶やビスマスの結晶など自然界にも見られるものです。私たちの研究では、この骸晶の大きさや形、成長する向きをそろえて作ることに世界で初めて成功しました。

 この成果は国際的な学術誌「サイエンス」に掲載され、大きな注目を集めました。この小さなおわんは、ミクロサイズの容器のように使うことができ、その内部で新しい化学反応を起こせる可能性があります。

 私たちの研究は、すぐに製品になるものばかりではありませんが、未来の技術を支える大切な基礎となるものです。分子の世界では、思いがけない結果が新しい発見につながることも多くあります。そのため、自由な発想を大切にしながら、一つ一つの実験に丁寧に向き合っています。

 これからも「分子のデザイン」を通して、新しい材料を生み出し、科学の面白さを社会に伝えていきたいと考えています。