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(3)乏しい支援策 個人補償は無理と難色
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 「三メートルの擁壁を対象にするのは画期的なことです」

 梅雨入り前の五月三十一日に開かれた衆院建設委員会。被災地の民間宅地擁壁対策の充実を求める質問に、建設省の小野邦久・建設経済局長が答弁した。

 民間宅地は自力復旧が原則。今回の震災で同省は、自然のがけが対象の急傾斜地崩壊対策事業の特例として、一定条件を満たす場合は公費復旧を打ち出した。高さ五メートル以上の条件は三メートル以上に緩和、三メートルでも宅地ではかなりの高さだが、「画期的」という。

 兵庫県建築指導課によると、震災後、危険な状態の擁壁は約二千七百宅地分。「家が壊れた上、擁壁もでは、ローンを抱えた人は立ち直れない。余震や雨のたびに二次災害が心配になった」と担当者は話す。

 自力復旧は困難と県は国に支援策を求めたが、協議は難航。同省は「個人の資産を高めるようなことは国にはできない」とした。

 結局、同省は現行制度の拡大解釈での対応を決める。水路や公園、ライフラインなど公共施設に被害が及ぶ恐れがある場合は「急傾斜地崩壊対策事業」、公道に被害が及ぶ場合は「道路災害復旧事業」とし、適用範囲を広げた。

 だが、あくまでも公共事業で、「個人補償は認めない」の立場は貫いた。

 二千七百のうち急傾斜地の対象は約七百件、公道復旧は現在、事業承認が八件、手続き中が六件の計十四件。二次災害防止は一刻も急ぐが、事業着手はまだ一件もない。

    ◆

 震災で、個人支援の在り方がクローズアップされた。被害はあまりにも広範囲で、大きかったからだ。

 二月二十日、県は、現地入りした自民党の武藤嘉文総務会長に、自力で仮設住宅を建てる人への補助を求めている。同総務会長は「必要なことだ」と認め、「政治の力でやる」と話した。水面下の話し合いの結果、「個人に国費は出せない」という擁壁問題と同じ理由で見送られた。

 六千億円の復興基金で、住宅建設融資の利子を五年間補給、利用者には無利子になる救済策では、自治省が「無利子にすることに、全国民が納得できるのか」と注文を付けた。

 基金の財源は、自治体の起債、つまりは借金だが、五千億円は利子の九五%を国が交付税の形で面倒を見る。

 注文で、住宅融資利子のうち、五千億の枠から補給するのは一・五%とし、残りは、県、神戸市が独自に調達する一千億の部分で賄って無利子にした。

 「国は個人への補助にならないための大義名分を探す。そのため、協議に延々と時間が費やされる」と県関係者は漏らした。

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 災害によって、個人支援の額は随分と異なる。

 住宅の全壊では、雲仙・普賢岳の場合、住宅再建助成五百五十万▽義援金配分四百五十万▽家財道具購入助成百五十万の計千百五十万円などが支給された。

 阪神大震災は、義援金配分十万、県災害援護金・市災害見舞金十四万(神戸市の場合)の計二十四万円。対象を限って住宅建設の利子補給が加わる。全国から約千六百億円の義援金が集まったが、救済すべき被災者はあまりにも多かった。

 「大災害では、被災者の自助努力だけでの自立復興は困難」と、震災後、雲仙の地元、長崎県弁護士会・災害対策法システム研究会は、国民全員加入の災害共済制度を提言、個人補償のため新たな制度づくりが必要と指摘した。

1995/6/28
 

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