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(6)特別基準適用 上乗せに手間取る協議
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 震災での政府の対応は、「特別基準適用」のラッシュだった。

 災害救助法23条は、「救助の種類」として、仮設住宅の供与、炊き出しなどによる食品の給与、生活必需品の給貸与などを挙げる。その期間、額は厚生事務次官通知で別途定められているが、「一般基準」では、現状にそぐわないことだらけだったからだ。

 神戸市の避難所で、食事が改善されたのは、震災から二カ月近くが過ぎた三月十日。菓子パン、牛乳などの朝のメニューにサンドイッチが加わった。缶詰と果物、カップめんなどのセットも毎日配られるようになった。

 一般基準 八百五十円
 特別基準 千二百円

 メニューの追加分は、一日当たり三百五十円増えた中から支出された。

 「結果的に特別基準が認められたが、個別のやりとりが大変だった。今回のような大規模災害ではなおさらだ」と、兵庫県消防防災課の担当者は振り返る。

 食費が問題になり始めたのは、震災から約一カ月たったころだ。救援物資が徐々に減り、長引く避難所生活で栄養面の充実も課題になってきた。

 県は、厚生省に特別基準を求めることになったが、根拠を示す必要があった。市町への現状照会から、標準的なメニューの検討、その費用、改善策と栄養価…。同省とのやり取りが続き、三月三日、「千二百円」が決まる。神戸市での改善は、この後の話だった。

    ◆

 三月二十三日付で、県が国に出した「特別基準設定要望」の一覧表がある。

 七日以内とされる避難所の設置期間は、六月三十日まで百六十五日間に、二十日間の仮設住宅着工期間は、七十四日間に、住宅の単価は百三十九万円から約二百八十万円に、などとしている。項目は二十以上にのぼる。

 実際、多くの項目は国が認め、避難所などはさらに延長された。しかし、仮設住宅へのエアコン設置は、対象とする「身体的・経済的弱者」の範囲をめぐって難航した。決まったのは五月二十五日である。

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 四年前の雲仙・普賢岳災害でも、さまざまな分野で上乗せの特別基準が適用された。今回も、その協議に時間と労力が費やされた。

 「一般基準そのものを見直す考えは」との問いに、厚生省保護課は答えた。

 「今の段階では明確に言えないが、運用には柔軟に対応している。食費も千二百円という協議結果を待つことなく、必要なら現地の判断で実行すれば良い。精算の際、妥当なものにはきちんと支払う」

 確かに、川西市が持ち出しを覚悟で、二月以降の食費を千二百二十五円とするなど、独自の判断で上乗せした市町もあった。

 しかし、神戸市の避難者は、特別基準が決まった三月三日時点で約八万人。百人台だった川西市とは比較にならなかった。神戸市が、持ち出し覚悟で千二百円の食事を提供しようとすると、一日二千八百万円が必要で、市民生局は「国の決定がなければ、独自で改善するのはとても無理だった」と言う。

 「国が認める『妥当』の範囲はどこまでか。それがわからずには出費できない、というのが担当者の思いです」と、県消防防災課。結果、辛抱を強いられたのは避難者だった。

1995/7/1
 

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