「事業化に向けた第一ステップです」。六月二十三日、神戸港港湾審議会が、「東部新都心」計画を承認した後、神戸市港湾局の辻明男主幹は、ほっとした表情を見せた。
「新都心」には、WHO神戸センターなどが計画され、復興のシンボルプロジェクトになるだけでなく、七千五百戸の被災者向け恒久住宅が建つ。計画承認は、全体百二十ヘクタールのうち七十四ヘクタール。復興で、これだけまとまった土地の青写真の完成は初めてだった。
予定地は、中央区から灘区にかけての臨海部で、神戸製鋼や川崎製鉄の赤茶けた工場群が並ぶ。産業構造の転換で、ほとんどのラインはストップ、両社は生産拠点の移転を表明したが、問題は、土地利用の足かせだった。
建設省所管の工業専用地域。運輸省所管の臨港地区。省がまたがる二重の網がかぶさっていた。
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計画検討は、一九九〇年にさかのぼり、九二年には、兵庫県、神戸市、学識経験者に両省を交えた土地利用の検討委員会が発足した。だが、「青写真を描くため、東西に一本の幹線道路を引くのも大変だった」と、市関係者は振り返る。
都市開発を浜側に向かって進めたい建設省と、ウオーターフロント開発を図りたい運輸省。幹線道路は両省の思惑がせめぎ合う境界線にもなったという。
九三年秋に検討委員会は、業務、流通ゾーンなどおおざっぱな再開発構想を答申、市は具体化を模索していたが、震災後、計画は急速にころがりだす。
一月三十日の神戸港港湾審議会は、北側を建設省所管の「都市機能用地」、南側を運輸省の「交流拠点用地」に二分した。貝原知事、笹山神戸市長は、神戸製鋼、川崎製鉄の経営陣と接触、二月初めには、従来は構想になかった住宅も建設、「復興拠点」とすることで合意した。
約五カ月を経た六月二十三日の審議会で承認された計画では、都市機能、交流拠点用地に加えて、新しく恒久住宅をつくる「都市再開発用地」が盛り込まれた。
本来の「臨港地区」が役割を担っている、物流機能やウオーターフロント開発をどうするか。市港湾局はポートアイランド二期など神戸港全体で物流機能を配置検討する方向を示し、運輸省の理解を得たという。
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新都心計画が、八月初めの中央港湾審で認められれば、市は年内に都市計画決定、正式に工業地域も外れる。区画整理事業を導入、年内にも事業化の予定だ。恒久住宅は、県、市、公団、民間などで建設し、九八年春の入居開始を目指す。
安藤嘉茂・市震災復興本部総括局次長は、課題として「資金計画、地権者との調整、誘致施設」を挙げる。
WHO神戸センター▽閉鎖性海域の環境保全を研究する国際エメックスセンター▽兵庫国際センター(JICA国際センターなど)▽国の防災関係機関を集めた防災合同庁舎…。
県や市が誘致を検討中の国や国際機関は数多いが、決まっているのはWHOだけ。三十日発表された神戸市復興計画は「WHOなど国際機関の立地に合わせて保健・福祉の教育、研究機関などを誘致する」とし、具体名は挙げられていない。
「推進や着手でなく、誘致なのは、国への働きかけはこれからということだ」と、市震災復興本部。「第一ステップ」という言葉は、ようやくスタート台という意味合いでもある。
1995/7/2