兵庫県宝塚市泉が丘の住宅街。見上げるような斜面に計画されるマンション建設に対し、住民が六月一日、反対の申立書を神戸地裁に提出した。
兵庫県の開発許可の効力停止決定などを求める内容で、その理由は、日照問題でも、道路問題でもなかった。「被害を最低限にくい止めるには規制が必要だ」。予定地の下を走るという活断層の存在だった。
申立書によると、予定地南端には活断層「有馬高槻構造線」が走る。約六百戸のマンションが建設されるが、地震などで建物が倒壊、住宅地になだれ込む危険性がある、という。
住民の一人は「震災を機に、都市防災の在り方が問われている。危険なところにマンションを建てるというのは動きに逆行している」と訴えた。
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活断層の存在と対策をどう考えるか。震災から間もない今年二月、神奈川県横須賀市の取り組みが注目を集めた。
東京湾に面する丘陵地・野比地区の開発計画は、約十五ヘクタールの土地にマンションなど七百三十戸が建つ。同市は、デベロッパーと三年越しの協議を重ね、活断層が走る部分の規制で合意した。
「活断層から二十五メートル以内は住宅建築を規制、活断層の上には公園や駐車場を配置する」。県都市計画審議会も、その内容を承認した。
「しかし、一概に規制することはなかなか難しい」とも、開発指導課の担当者は漏らした。
都計審承認のニュースが流れた直後、建設省から連絡が入った。「法的な根拠もないまま、どういうつもりで規制をしたのか」
呼び出しを受けた担当者は「規制ではなく、あくまで業者との紳士協定」と説明、ようやく理解を得たという。
今後も、市は民間に協力を働きかけるつもりだが、「野比は、大きな土地だから実現できた。小規模開発では、活断層を避けるため、余分に空間をとるのは難しい」と、同課は言う。
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六月十四日、活断層上の建築規制について、政府の見解をただした荒木清寛・参院議員(愛知選出)は、内閣総理大臣・村山富市名の答弁書を受け取った。
「阪神・淡路大震災による建築物の被害、その対策は検討しているところである」とのみ記され、具体的な中身はなかった。
米国・カリフォルニア州は、条例で活断層から十五メートル以内の住宅建築を禁止している。ニュージーランドは、建築基準で厳しい耐震設計を義務付けている。
日本での建築規制は、原子力発電所やダムなどに限られる。活断層を考慮した規制はどの法律にもない。
宝塚市も二年前、開発指導要綱などでの規制を内部で検討したことがあったが、断念。市都市整備部は「土地の所有権の問題があり、規制するには補償制度が必要となる。国の法律、施策がなければ、一自治体としては限界がある」と話す。
確認分だけで約二千もの活断層が走る日本列島。荒木議員は「すべてを対象にしろとはいわないが」と、指摘した。「避難所となる学校、そして病院などの施設は、規制をかける必要があるのではないか」
建設省都市局は、踏み込んだ答えを避け、規制を検討する自治体への支援についても「検討中」とだけ答えた。
1995/7/3