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(1)課された条件 被災地と霞が関に温度差
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 その文書が交わされたのは、五月二十三日の閣議からおよそ二日後だった。

 兵庫県は貝原俊民知事名、国は小里貞利震災担当相名で、仮設住宅の追加分の活用を図り、七月末をめどに避難所を解消する方針、などとあった。文書交換は非公式に行われ、公表はされなかった。

 閣議では、県が求めた応急仮設住宅八千三百戸の追加建設が了承されている。追加で仮設住宅は計四万八千三百戸。国はこれで仮設住宅への措置は完了とした。

 国土庁にある震災担当相特命室は、文書の意味を「県の意思表明としていただいた。この問題は国の責任もある。互いに目標をあらためて確認した」と説明した。

 仮設住宅や避難所を担当する厚生省も、特命室と同様、七月末に避難所を解消する方針を明記した文書を要望書として受け取った。

 仮設住宅建設は災害救助法に基づく。国の責任の下で県が実施し、市は用地の確保や建築協力、入居事務から以降の管理をする。建設費の国の補助率は、一九九四年度で総額の八六%。

 七月末、避難所解消の方針は、笹山幸俊神戸市長が四月末、表明していたが、「金を出す以上」と、国はあらためて条件を地元に課したのだった。

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 一月十七日の震災後、三万戸の建設はすぐに決まった。一万戸を追加したのも、二月初めだった。だが、その後の追加をめぐる被災各市、県、国の折衝は難航した。

 四月初め、神戸市は避難所アンケートの結果を基に八千五百戸の追加を要望、それを受けて県は同二十四日、五千六百戸に修正して国に追加を求めた。

 しかし、厚生省は市の八千五百戸について「根拠がアンケートでは、どれだけまともな数字か分からない」とし、県の要請には「本当にそれで大丈夫か。これが最後ですよ」と迫った。

 五月の衆院建設委員会で、野坂建設相は「われわれも血を流しながら建設したのですが、なぜお入りいただけないのでしょうか、こう言って知事や市長にお話を申し上げた」と答弁。震災担当特命室によると、追加問題について大蔵省は、「空き家が目立つ」と、繰り返し指摘したという。

 神戸市は五月十日から一週間、避難所で暮らす全世帯を対象に個別面談調査を実施。仮設住宅の第四次募集状況から親類宅などに身を寄せる「避難所外の避難者」の動向も調べ、県内全体で最終的に八千三百戸が決まった。

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 六月十六日から三日間、全神戸避難所連絡会議のメンバーらは、市役所に泊まり込んで抗議、「七月末に避難所解消」の方針と対応をただした。

 神戸市は要求のあった2Kタイプについて、1Kから振り替える方向で県と調整を始めた。追加分は既成市街地にも建てる。同二十一日には、仮設入居の状況を見ながら、七月末に向け、避難所を段階的に統廃合していく計画をまとめた。

 同会議代表の河村宗治郎さんは「仕事などで遠くの仮設に移れない避難者もたくさんいる。追加でも足らないだろう。その場合、市は対応すると答えたが、さらに追加建設することと理解している。避難所解消といっても、移りやすい所に仮設住宅を建てるのが、行政努力ではないか」と話す。

 県内では二十五日現在、二万九百三十三人が避難所で生活を続ける。厚生省保護課の担当者は、クギを刺すように言った。「本当に難しい問題なのかもしれないが、こちらに努力が見えてこない。避難所の解消については、行政の信頼関係の話です」

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 被災地と霞が関に温度差があるという。自治体の復興計画と予算措置が大詰めを迎え、復興はこれからという時期にである。国は今、被災地をどんな目で見つめているのか。なお多い課題の解決にどう取り組むのか。「復興へ第四部」は、国の考え、取り組みをテーマにしたい。

1995/6/26
 

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