皇居を望む東京・丸の内の東京海上研究所。下河辺淳・理事長のオフィスには、電話がひっきりなしにかかる。
政府の復興本部、兵庫県、神戸市など。相手は違うが、用件は同じだ。同理事長は政府の阪神・淡路復興委員会委員長を務める。復興十カ年計画に対する節目の提言が目前に迫っている。
委員会は、関経連の川上哲郎会長、評論家の堺屋太一氏、貝原兵庫県知事、笹山神戸市長ら七人と、特別顧問の後藤田正晴・元副総理、平岩外四・前経団連会長で構成する。
役割を、五十嵐広三・官房長官は「地元の計画とタイアップし、新しい国土形成のため、互いに知恵を出す」と説明、政府諮問機関としての位置づけは、これまでになく重い。
首相周辺も「提言するだけの委員会ではない。その提言が直接、施策に生かされる」と言う。
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二月十六日の発足以来、神戸港の復旧、住宅復興計画、雇用問題などテーマごとに行った提言は計十回。六月十二日のテーマは都市復興だった。
下河辺委員長はこう述べている。「国のモデル事業として実施しながら、同時に制度のあり方を考えてはどうか」
ライフライン整備や、公園や街路樹などのネットワーク化には、建設、厚生など各省庁の権限が複雑に入り組む。「国のモデル事業」を被災地に導入することで、縦割りの弊害をなくす。事業の進ちょくに併せ、法制度を整え、適用を全国に広げる。発言には、そんな狙いがこもっていた。
関経連の川上会長も「提言を受け、これまでは国も期待した以上にやってくれた」と、振り返る。
例えば、税制の優遇措置や規制緩和で、外資の誘致を図るエンタープライズゾーン構想がある。神戸港再生の起爆剤のためにも、と地元は求め、委員会は三月の提言で、「特段の開放措置を講ずること」と求めた。日本では例のない措置に、通産省が検討を始めた。
同会長は「まだまだ、制度改革はこれから。ハードルは高いだろうが、震災を機に思い切った規制緩和、改革が必要」と説き、「一極集中を打破するモデルとして取り組まなければ」と力を込める。
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委員会は十日、兵庫県、神戸市に復興計画のヒアリングをし、提言は十八日の予定だ。下河辺委員長は、取材に対し次のように答えた。
-提言は生かされたか。
「全面的に反映されている。提言を、政府の復興本部が受けて立っている。役割は果たせたかなと思う」
-官僚の壁はないか。
「一切を私がまとめ、事務局に口を出させていない。官僚が口を出すなら、それは委員会とは違う」
-地元の復興計画と委員会の関係は。
「どう実現するかを、みんなで努力する。それが地元がつくった計画を尊重する本質的な意味だ。地元で集まり、議論し、思いを計画に整理してきた。易者じゃないから将来を当てても仕方ないが、思いを実現できるようにしたい」
財政支援の問題では慎重だった。「神戸、阪神は日本の先進地。まず自分の力で立ち上がるべきではないか。政府への依存は、かえって不自由になる。こういった時こそ、地方分権を進めるべきだ」とし、「赤字国債を出してまで補正予算を組んだ政府の苦しみを、地方も分かっているのではないか」とも話した。
「総理や知事、市長を立ち往生させたくない」。そんな発言は、国と被災地のバランス、委員会の意見の重みを、慎重に検討しているようにも受け取れた。
二日の日曜日も、県庁に知事、副知事や教育長、部長らが集まった。特に力を入れる事業、国に求める役割を、委員会のヒアリングでどう説明するか。さまざまな角度から検討を重ねたが、宿題はなお残った。
(桜間裕章、西海恵都子、鉱隆志、宮田一裕)=第四部おわり=
1995/7/5