■「共考」のまちづくりを
神戸大工学部教授 室崎益輝氏に聞く
未来への芽は生まれたが
被災地のまちづくりに、震災の教訓は生かされたのだろうか。神戸大学工学部(都市防災)の室崎益輝教授に聞いた。
復興都市計画の4年半余りを振り返ると、最大の成果は市民による市民のためのまちづくりの芽が生まれたことだろう。
「まちづくり協議会」を通じ、自分たちのまちの在り方を住民自身の意識を反映させながらつくるシステムが出来上がってきた。今までまったく発言しなかった住民がまちづくりに関してものを言うようになった。行政やコンサルタント頼みはあるにせよ、ポケットパークやせせらぎのあるまちなどを生みだせた。
一方で、震災の教訓を生かした21世紀につながる新しいまちの姿はつくり切れなかった。震災前に比べ、本当によいまちになった、と自信を持っていえる夢やロマンのあるまちは実現できなかった。
これには、震災後の早急な都市計画決定も影響しているだろう。議論する時間がないまま区画整理に入り、減歩などに対して事業は”善か悪か”の問題になり、そこから前に進めない例が数多く見られた。「被災市街地復興特別措置法」がもう少し早くできれば、理論的には時間的余裕も生まれただろう。しかし、現在の都市計画は20世紀型幻想の一つでしかなく、そこからは新しいまちは生まれない。
再開発もまた、”摩天楼のまち”という20世紀型システムそのものだ。売れ残り、その金利負担、そして最終的には税金で補填(てん)という問題になる可能性が高い。学校や文化施設などを誘致し生かしていく方法を考えなければならない。これも震災が20世紀のまちづくりや都市計画の転換点だったということを受け止められなかった端的な例ではないか。
被災地で100を超える「まちづくり協議会」ができ数千の市民がかかわった。この体験を核に専門家、行政も含めさまざまな人が、さまざまな形で緩やかに結びつき、意見を出し合う「共考」の場をつくり、震災の教訓を生かしたまちづくりを進めていかねばならない。(談)
メモ
震災復興土地区画整理事業の現状
(1)
【地区名】 鷹取東第一 神戸市長田区
【規模】 8.5ヘクタール 905世帯
【事業計画決定】1995・11・30
【仮換地】 99%
【現状と課題】 宅地割を100%達成。区画道路も9割が完成。来年度中の事業完了にめど。
(2)
【地区名】 鷹取東第二 神戸市須磨・長田区
【規模】 19.7ヘクタール 1747世帯
【事業計画決定】1997・3・5
【仮換地】 45%
【現状と課題】 ブロックごとに仮換地指定を進めており、今年度中に約8割の指定が目標。
(3)
【地区名】 新長田駅北 神戸市長田・須磨区
【規模】 59.6ヘクタール 3267世帯
【事業計画決定】1996・7・9
【仮換地】 37%
【現状と課題】 対象地域が広く市は担当職員を増強した。公営住宅143戸は入居が完了。
(4)
【地区名】 御菅西 神戸市長田区
【規模】 4.5ヘクタール 331世帯
【事業計画決定】1997・1・14
【仮換地】 47%
【現状と課題】 共同化住宅は12月完成だが、不在地主が多く長屋だった地域は時間がかかりそう。
(5)
【地区名】 御菅東 神戸市長田区
【規模】 5.6ヘクタール 554世帯
【事業計画決定】1996・11・6
【仮換地】 61%
【現状と課題】 御菅市場の再建が地区活性化のカギ。具体化に向けた議論が進められている。
(6)
【地区名】 松本 神戸市兵庫区
【規模】 8.9ヘクタール 1206世帯
【事業計画決定】1996・3・26
【仮換地】 55%
【現状と課題】 地元提案した「せせらぎ」のある17m道路は実施設計段階。来年度着工目指す。
(7)
【地区名】 六甲道駅西 神戸市灘区
【規模】 3.6ヘクタール 494世帯
【事業計画決定】1996・3・26
【仮換地】 90%
【現状と課題】 道路整備も7割が終了。年度内には95%程度まで仮換地指定が進む見込み。
(8)
【地区名】 六甲道駅北 神戸市灘区
【規模】 16.1ヘクタール 1810世帯
【事業計画決定】1996・11・6【仮換地】 80%
【現状と課題】 今年に入ってから仮換地指定率が20ポイントアップ。公営住宅の入居も始まっている。
(9)
【地区名】 森南 神戸市東灘区
【規模】 16.7ヘクタール 1501世帯
【事業計画決定】第一 1997・9・25
第二 1998・3・5
第三 1999・10・7
【仮換地】 第一 78%
第二 75%
第三 0%
【現状と課題】 第一、二は現地換地が急ピッチ。第三は年度内にも仮換地指定が始まる見通し。
(10)
【地区名】 芦屋西部 芦屋市
【規模】 21.2ヘクタール 1430世帯
【事業計画決定】第一 1998・5・25
第二 1998・3・26
【仮換地】 第一 7%
第二 12%
【現状と課題】 いずれも今年に入り仮換地指定がスタート。宅地整備などの年内着工を目指す。
(11)
【地区名】 芦屋中央 芦屋市
【規模】 13.4ヘクタール 760世帯
【事業計画決定】1996・6・18
【仮換地】 66%
【現状と課題】 基盤整備は順調だが、仮換地指定をめぐり訴訟が起きるなど住民交渉になお時間。
(12)
【地区名】 森具 西宮市
【規模】 10.5ヘクタール 830世帯
【事業計画決定】1996・2・29
【仮換地】 90%
【現状と課題】 仮換地を終えた地域は宅地整備がほぼ完了。建物建設も8割まで進んでいる。
(13)
【地区名】 西宮北口駅北東 西宮市
【規模】 31.2ヘクタール 1700世帯
【事業計画決定】1996・11・8
【仮換地】 85%
【現状と課題】 道路整備は43%まで、ライフラインも25%終了。共同住宅が来年1月完成予定。
(14)
【地区名】 築地 尼崎市
【規模】 13.7ヘクタール 1050世帯
【事業計画決定】1995・12・27
【仮換地】 62%
【現状と課題】 現地換地はなく全戸が移転予定。今年末に新たに104戸の公的住宅が完成。
(15)
【地区名】 富島 北淡町
【規模】 20.9ヘクタール 602世帯
【事業計画決定】1996・11・6
【仮換地】 11%
【現状と課題】 買収用地の多い東側から仮換地指定。町営住宅二期分20戸が今月末に完成予定。
(注)地区名の( )数字は地図の数字と対応。世帯数は震災時のもの。仮換地は1999年10月1日現在の指定率。