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(6)空き地を広場に変えた 人をつなぐ公園づくり
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 神戸芸術工科大の大学院生、杉本崇さん(23)は、震災直後から、神戸市長田区駒ケ林町で空き地の定点観測調査をしている。

 復興再開発が進むJR新長田駅南地区のさらに南に位置する「白地地域」。長田港に近く、漁師町の面影を今も残す。入り組んだ狭い路地が縦横に走る。

 接道不良や複雑な権利関係、資金難などで再建のめどが立たない更地がモザイク状に残る。金網やシートで覆われ、多くは放置されたままだ。今年六月の調査でも、放置状態の空き地の数は九七年の調査時に比べ、一・五倍増えていた。

 空き地の一つを、近くの住民らが有効活用していると聞き、同町二丁目の岡本佳代子さん(59)を訪ねた。

 岡本さんは、震災で倒壊し、当面再建の予定がない自宅前の民有地を地主に借り、花壇にした。廃材で作ったベンチも置いた。近くのお年寄りが集まり、道行く人々も足を止める。

 岡本さんは「今では四季折々の花が咲き、小鳥の飛来も増えた」と話す。

 杉本さんは、ほかの空き地の地主にも広場や植栽としての利用を提案し、地域住民に共同で整備に取り組むよう促す考えだ。

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 被災地で目立つ空き地の活用を地域で促進するため、神戸市は九八年度に「まちづくりスポット創生事業」を始めた。

 市が当面未使用の空き地を三年間を限度に借り、まちづくり協議会など地元組織に無償で貸す。整備費は三百万円以内で市が負担。地元が管理、運営する。

 憩いの場としての再生が第一の狙いだが、市アーバンデザイン室は「もっと活用し、まちづくりの契機に」と期待する。

 この取り組みは、灘中央地区を皮切りに、既に七カ所で事業化された。その一つ、トアロードでは、まち協が元NHK神戸放送局跡地の一部を庭園にした。地元の街づくり会社がカフェを運営、その収益を維持、管理費に充てている。

 同社の広瀬今日子さんは「イベント会場ができたことで、いろんな企画が生まれつつある」と話す。

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 区画整理や再開発などでできる公園や広場を活用し、どんな「まちづくり」をしていくべきなのか。先駆けとされる、東京・世田谷の「ねこじゃらし公園」を訪れた。

 完成は九四年。地域のNPO「玉川まちづくりハウス」と区民、行政がアイデアを持ち寄るワークショップ形式で八年かけて造った。原っぱやせせらぎ、夕日を眺める丘がある。維持、管理は地元住民グループが当たる。

 その実績をもとに、新たな計画も進む。区所有の高齢者在宅サービスセンター用地を着工まで地域住民が借り、花や野菜づくりを楽しんだ。そこで住民のネットワークが生まれ、来年春の開所時には運営にも携わる。公園から始まった「まちづくり」は、高齢化社会の地域拠点づくりにまで広がった。

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 被災地では、尼崎市が今年度から、地元住民主体の「地域ふれあい公園づくり」事業を始めた。

 今年度は一カ所だけだが、老朽化した公園の改造案を住民と行政がワークショップ形式で練っている。公園の機能やデザイン、完成後どのように使うのかまで、時間をかけて話し合う。

 公園づくりが、失いかけた人のつながりを再構築している実例が、被災地や東京でみられる。小さな積み重ねが、新しいまちを生み出す。

1999/10/23
 

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