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(8-2)問われる復興都市計画 再建 もっと柔軟に
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 地震や水害など大災害の後、都市をどのように復興するか。まちと生活の早期再建の道筋をどのように示すのか。阪神・淡路大震災は、大きな経験と教訓を残した。被災地では、現行の法制度に基づき、九五年三月十七日に復興都市計画が決められた。住民の意見を反映できるよう、都市計画決定に「二段階方式」を採用するなど新たな試みもなされたが、そのプロセスをめぐっては今も評価が分かれる。震災後にできた被災市街地復興特別措置法の適用も含め、復興都市計画はどうあるべきか。阪神・淡路での取り組みを検証し、笹山幸俊・神戸市長と、山下淳・神戸大法学部教授(行政法)にその評価を聞いた。

対象地域は変えず
 兵庫県は復興都市計画を決定した一九九五年三月、新たな手法として「二段階方式」を打ち出した。

 幹線道路や大規模公園の建設など骨格となる都市計画決定は急ぐが、細部の具体的な計画案については住民と協議、修正しながら追加決定するという方針。県都市計画審議会で決定した際、「今後、住民と十分意見交換すること」とした異例の付帯意見も踏まえた方針だった。

 その後、各地にまちづくり協議会がつくられ、行政と地元が議論を重ねた。道路や公園など住民提案を受けての計画修正がなされたケースはあった。ただし「対象地域は変更しない」が大前提。区画整理事業の導入をめぐり、まちづくり協議会が三分裂した森南地区(東灘区)では当初の十七メートル道路計画が撤回されたが、むしろ例外的だった。

 当時、県計画課長として「二段階方式」を検討した、建設省の松谷春敏・まちづくり事業推進室長は「第一段階は、都市レベルで必要な施設を決めた。広域的な機能を持っており、一地域の都合で不要にはならない」とする。

 これに対し、塩崎賢明・神戸大工学部教授(都市計画)は「計画案の作成段階から住民とともに議論し、不都合が生じた場合は柔軟に見直す仕組みが不可欠だ」と指摘する。

見送られた新法適用
 一方で、復興は時間との競争でもあった。建築基準法八十四条による従来の建築制限は最長二カ月。期限の三月十七日までに都市計画決定をする必要があった。当時は新法制定の動きも不透明で、神戸市などは通常の都市計画決定へ作業を進めた。そのさなか、二月二十六日に被災市街地復興特別措置法が施行された。

 同法で復興推進地域に指定されれば、建築制限は最長二年間まで延長できる。これを適用し、時間をかけて計画を議論すべきだった、という指摘がある。

 松谷室長は「建築制限の内容が区画整理法よりも厳しい問題点があった。また都市計画決定の縦覧開始が目前に迫り、方針転換は混乱を招く恐れがあった。正直なところ、時間がなかった」と振り返る。

 結果として、特措法による復興推進地域と、区画整理、再開発など都市計画事業が同時に決められた。これにより、用地の先行買収や事業用仮設住宅・店舗の現地建設が可能となった。特措法による建築制限は見送られたが、公営住宅の入居など特例は適用された。

 建設省は現在、都市計画法の見直し作業を進めている。「二段階方式」の理念である、段階ごとに住民の意見を反映させ、計画を煮詰めていく方法は改正法に反映されようとしている。

無理のない合意を
 加えて「事前復興」の考え方が注目されている。平常時から地域の課題についてどういう議論ができるか、取り組みが求められる。阪神・淡路の被災地でも、震災前からまちづくりの取り組みが見られた地域では復興への動きは早かった。

 阪神・淡路の教訓をもとに、九七年五月に作成された東京都の「都市復興マニュアル」は、災害後の応急対策から復旧・復興への手順を事前に示している。<上図>の通りだが、まず復興の全体方針を個別地区の事業に先立ち策定・公表し、住民参加により、二年間の建築制限期間を見据えて無理のない合意形成を図ることを目指している。

 平常時から復興まちづくり計画について話し合っておくことは、復興議論のたたき台にもなる。住民間の対立をやわらげ、円滑なまちづくりの推進にもつながる。行政は情報公開を積極的に進め、地域も議論の受け皿となる組織をつくっておく。それが、いざという時の備えとなる。

山下淳・神大教授 多様なメニュー必要
 震災直後の都市計画決定で採られた「二段階方式」についての評価は、いまだに難しい。

 「二段階方式」はまず第一段階で事業地域や道路、公園など骨格を決め、その後、住民と協議し計画を詰めていく手法。今回は、第一段階そのものは行政と住民が議論をした上での決定ではなかった。その後の協議も、計画ありきで条件闘争に移行していった。

 第一段階に住民がどこまで関与できるかは、時間の問題が大きい。「二段階方式」を採用するには、第二段階で、第一段階の決定を柔軟に修正できるようすべきだ。

 最長二年間の建築制限ができる被災市街地復興特別措置法が施行され、都市計画事業でやるか、事業内容をどうするか、ある程度の時間的余裕を持って検討できるようになった。

 しかし今回、行政現場は先行して都市計画決定の作業を進めていた。震災直後に住民が都市計画について細かく理解することは難しく、ある程度の行政主導はやむを得ない。だが住民に事業内容を分かりやすく説明することは不可欠。住民も平時から地域の現状や将来に関心を持ち、議論の受け皿となる組織を持つ必要がある。

 被災者がもといた地域で当面の生活が確保できる手立てを用意した上で協議に入る。行政が事業の時間的流れが分かる見取り図を最初に示す。東京都の都市復興マニュアルにはその教訓が込められている。生活再建の見通しが立てば、住民も安心して協議に臨むことができる。

 現状では、都市計画事業を導入した地域と、それ以外とで復興に落差が生じている。復興には多様できめ細かな事業メニューの用意がいる。そのための制度整備がどこまで進んだのか、検証が必要だろう。(談)

笹山幸俊・神戸市長 ソフト面を活性化
-震災から二カ月後の都市計画決定に対し、急ぎ過ぎ、という指摘もあったが

 「被害の大きかった地域は土地、建物の権利関係が複雑なところが多かった。借家人を含め関係者の権利を守るためにも、できるだけ早く建築制限をかけることが必要だった」

-震災後に被災市街地復興特別措置法が成立し、最長二年間まで建築制限を延長できるようになった

 「施行された時点ですでに都市計画決定に向けて動き出していた。実際には国庫補助金採択基準の緩和など、現行法の特例措置で新法の中身は取り込むことができた」

-まちづくりの進ちょく状況の評価は

 「まず計画の網をかけ、住民の意向で変更も可能という『二段階方式』を採った。権利関係がふくそうし、長引いている地域もあるが、全体として思っていた以上に早く、区画整理は仮換地が急ピッチで進んでいる」

-再開発については

 「新長田駅南地区は本当の意味で副都心に発展させるために、再開発地区だけでなく周辺も含めた広い範囲で十年、二十年という長い目で考えなければならない。再開発も弾力的に行いたい。土地の高度利用で多くの床面積を生み出す手法は、今の経済状況には合わない。市民が望むまちの形は多様化している。高層ビルが林立する形だけではなく、地域に応じた建物分布の整備が必要。計画の見直しは、地元と十分に協議しながら柔軟に対応したい」

-残された課題は

 「建物だけではなくソフト面の活性化。すでに住民が協力し『まちづくり会社』を発足させ、行政ができないイベント企画やまちのPRを展開している」

-災害後のまちづくりの手法として、震災の経験を踏まえた提言を

 「道路一つ、公園一つでも防災に役立つという認識が必要。小さな面積でも共同で空き地をつくり、地域福祉センターなどを核に向こう三軒両隣の関係を密にすることが大切だ。よりよいまちづくりのために、住民のみなさんもアイデアを出してほしい」

(社会部・武田悠紀夫、長沼隆之、尾形宏文、石崎勝伸)=おわり=

1999/10/25

 

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