「まちを花で飾ろう。そうすれば、みんながまた声をかけ合うようになる」
被災地の中で、復興区画整理事業が最も早いペースで進む神戸市の鷹取東第一地区(八・五ヘクタール)。すっかりニュータウンのように趣を変えたその地区で、最近そんな声がささやかれ始めた。
震災で、ほとんどの家が焼失。神戸市の復興計画にいち早く合意して事業に着手した。JR鷹取駅前から東へ延びていた商店街は消え、代わって広い道路と公園が生まれ、三階建ての家や集合住宅が立ち並ぶ。
確かに、災害に強い安全なまちにはなったが、下町らしさが消えたと、まちづくり協議会の会長を務める小林伊三郎さん(71)が話した。「春になれば、町中からいかなごを炊くにおいがしてたのに、それがなくなった。店が減り、女性たちの立ち話も減ってしまった」。震災前まで商店街で店を構えていたという小林さんは、まちの変わりようを寂しげに説明した。
だから、各家の軒先やベランダに花を咲かせ、まちを花でいっぱいにしよう。花を話題にして、まちに活気と潤いを取り戻そう。協議会は、区画整理事業が落ち着いた後の活動として、そうした「花のまち」構想を目指す。「安全なまち」とともに、「安心できるまち」をもう一度、つくりたい。協議会の灯(ひ)を消さず、今後も活動していくのだという。
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復興区画整理事業は震災後、神戸市を中心に芦屋、西宮、尼崎市、津名郡北淡町の計十五地区、二百五十四ヘクタールで相次いで始まった。同時に、各地区のまちづくり協議会が生まれたが、事業計画に住民の声を生かすという協議会本来の役目は十分に果たせず、事業は行政主導で進んできた。
土地区画整理事業は、関東大震災時や戦後復興をはじめ、大規模な災害が起きるたびに導入されてきた。その都度、復興とともにまちの近代化を図ってきたが、手法は、道路や公園など面的な整備に限られ、住まいの在り方やコミュニティーなどを含めた全体的なまちづくりへの視点に欠けた。「いつもその繰り返しだった」と指摘する専門家は多い。
新しいまちが生まれる一方で、震災前にあった隣近所のぬくもりや、下町らしさがなくなったと、住民を戸惑わせるところは多い。
同じように急ピッチで区画整理が進む六甲道駅西地区でも、住民の一人が「震災で生まれた地域のきずなが、まちの再生とともに消えていく」と、薄れる地域のつながりを憂いだ。
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しかし、鷹取東第一のように、「まち協」の経験を今後に生かしたいと模索する地区もある。「酒蔵のまち」再生を目指す神戸・新在家南地区もその一つ。今、まちづくり委員会の若手を中心に、まちの環境問題にも取り組む動きを見せている。
きっかけは、すぐ南に建設される火力発電所だが、「環境」というテーマに、今後はまちづくりの一環として取り組めないか、と考えている。
高田昇・立命館大教授(都市計画)も「この五年で失ったり、浮き彫りになった課題は数多い。今後は、行政がコミュニティーづくりなど、幅広い支援もすべきではないか」と提言する。
区画整理事業が進む被災地を歩き、住民の声を聞くたびに、同じような思いに駆られる。住民のためのまちづくりを支える体制が必要なのではないかと。
1999/10/24