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(7)自力復興の壁 財源は国頼み 進まぬ再建
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浜辺に点在する集落の集約化(黄色い部分)を目指した宮城県女川町の復興まちづくり案。住民の反対で頓挫した
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浜辺に点在する集落の集約化(黄色い部分)を目指した宮城県女川町の復興まちづくり案。住民の反対で頓挫した

浜辺に点在する集落の集約化(黄色い部分)を目指した宮城県女川町の復興まちづくり案。住民の反対で頓挫した

浜辺に点在する集落の集約化(黄色い部分)を目指した宮城県女川町の復興まちづくり案。住民の反対で頓挫した

 「いったい、いつまで待たせるんだ」

 昨年10月初旬、宮城県南三陸町。町復興計画案の住民説明会。具体性に欠ける内容に、男性の不満が爆発した。

 東日本大震災の大津波で町域の6割が浸水した。遅々として進まない町の再建に、住民のいら立ちは募っていた。町外への転出にも拍車がかかり、1万8千人近くいた人口は半年で約2千人も減った。

 西宮市から派遣されている復興事業推進課技術参事の畑文隆(48)は心情を理解しつつ「財源が見えないと動けない。国は見捨ててはいない」と答えるのがやっとだった。

 これに先立つ6月。宮城県は土木部の特命チームが1週間で作成した「復興まちづくり計画」の原案に被災市町の概算を積み上げた復興事業費2兆円超を算出し、国に提示する。しかし、国の財源措置は一向に示されなかった。

 国土交通省が被災地にコンサルタントを派遣したのは6月に入ってからだ。阪神・淡路大震災の後、建設省(現・国交省)の幹部らが神戸市に乗り込み、協議してまちづくりの枠組みを素早く作り上げた状況とは異なっていた。

    ◆

 南三陸町は住民の意向調査を重ね、9月末、県の原案とは別に、今後10年の復興計画案をとりまとめる。だが高台移転や区画整理を担当する畑の気がかりは事業費だった。

 総額1500億円は町財政(約80億円)のほぼ20年分。財源は国に頼るしかない。

 畑は「一部でも負担すれば財政は破綻する。それでは計画は絵に描いた餅だ。財源が明確になるまで、住民には説明できなかった」と話す。

 自力での復興は難しい。国を頼りつつ、住民の理解を求めていくしかない。被災市町が抱える葛藤は、阪神・淡路の当時と変わらない。

 財政規模が約1千億円の西宮市でさえ、その5年分に迫る復興事業に特例的な補助金をフル活用したが、17年を経た今も100億円以上の債務が財政を圧迫する。阪神・淡路では、国の支援は原則「復旧」に限られていたからだ。

 東日本では、現地で再建するにも津波の再来に備えて堤防を築き直す必要がある。高台移転の場合も土地を探し、埋蔵文化財を調べ、測量・造成の上で新たな市街地をデザインしなければならない。

 「財政基盤が弱く、どこも自力では無理です」。畑らは住民に繰り返し説明するしかなかった。

    ◆

 宮城県女川町でも、県の原案は、住民との話し合いを経て様変わりした。

 同町も町域の7割が浸水した。県の原案では15ある集落を四つに集約させる、となっていた。県土木部の推進チーム長だった千葉晃司(53)は「どこも人口は減り、高齢化率も高い。単に高台に移すだけでは限界集落に陥る危機を解決できない」と理由を語る。

 当初、町も「一つにまとまる方が造成費などを抑えられる」と理解を求めた。だが住民は「気心知れた人たちと暮らしたい」「漁業ができない」などと反発していた。

 結局、町は集落ごとの移転にかじを切る。昨年8月、復興計画案から「新しい居住地の在り方を検討する」との文言は削られた。町は「住民の意向をくみ取らざるを得ない」と説明するが、10世帯前後で移る地区もあり、限界集落への懸念は残ることになる。

 12月。集落の集団移転など40の事業に使うことができる「復興交付金」の創設を盛り込んだ特別法が国会で成立した。市町によって住民との向き合い方に違いが生じる中、復興まちづくり事業はようやく動き始めた。=敬称略=

(安藤文暁)

2012/8/25
 

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