神戸・JR新長田駅南に広がる再開発地区へ。立ち並ぶ高層ビルの下部にある商業ゾーンを見て歩いた。店はビルの地下から2階に広がる。駅から南に下るにつれ、にぎわいが次第に薄れていく。
現状を聞いて回ると、商店主の嘆きが聞こえてきた。
「働けるのはあと4、5年くらい。店をどうしたらいいか…」と眼鏡店の男性(77)。仮設店舗を経て2003年に入った。シャッターを閉じた店が多い。業績は低迷し、入居時に負った借金の返済に加え、月4万円ほどの共益費も重い。「店を売ったところで借金は返せない。借り手も後継者もおらん。私ら地権者で店を再開した人が一番苦しい」
婦人服店の女性(75)がため息をつく。「年も年なのでほんまは辞めたい。でも店を閉めたら共益費とかは誰が払うん? 立派な入れ物ができたけど、人は置き去りやね」
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「住商工の共生するまちの中心」(神戸市復興計画)。新長田駅南には再開発ビル群が建設され、町の様相は一変した。「震災前からインナーシティー問題で地域は衰退していた。将来に街を残すためにも、副都心の核施設として機能を集約させる必要があった」。神戸市新長田南再開発担当部長の茗荷(みょうが)修は言う。
町工場や商店がそろう人情味のある下町だ。そこに根を張ってきた店主らにとって、無機的な再開発ビルの「容器」は似合わないのではないか。20・1ヘクタールの巨大再開発には当初から批判があったが、茗荷は「住民や商店主が元の場所に戻るためには、再開発の手法しかなかった」。
商業床は震災前の1・6倍となる7万7千平方メートルになった。しかし、売却は進まず、市が半分を保有したままだ。「都市計画は安全・安心を最優先するが、商業のにぎわいに必要なのはわいざつさ。商業再生に再開発の手法はなじまない」。元市職員で、30年近く神戸の商業を見続けてきたコンサルタント、中多英二(63)の実感だ。
商業床は埋まらないが、上部のマンション部分には新住民が多く住み、再開発地区の人口は震災前比2割以上増えた。現在、区全体の高齢化率は約30%。今後、高齢化とともに人口が変動したとき、小回りの利く地域商業が求められるのではないか。商売のやり方はあるはずだ。
まちづくり会社の神戸ながたティ・エム・オー(長田区)専務で鉄人28号のモニュメントづくりに取り組んできた正岡健二(66)は話した。「環境は激変したが、町の再生には個店の努力が不可欠。商売人の踏ん張りどころだ」=敬称略=
(土井秀人)
▽新長田南再開発事業 JR新長田駅南側の土地を神戸市が買収し、20・1ヘクタールを2710億円かけて整備。44棟のビルを建設する計画で、現在35棟が完成、2棟が工事中、7棟が未着工となっている。
2014/1/18