見上げるばかりの高層ビルが14棟。中心には約1ヘクタールの防災公園。子どもたちの歓声が響く町に、阪神・淡路大震災前の面影はない。
神戸市灘区・JR六甲道駅南地区。震災で住宅の65%が全半壊したが、復興再開発事業で景色は一変。灘区役所も地区内に移転し、東部副都心と位置づけられる。
「再開発の成功例」と言われ、日本都市計画学会の賞も受けた。町を歩くと、同じように再開発を行った西部副都心の新長田駅南とは異なる課題が浮かび上がってきた。
人口減と高齢化、空き店舗増に苦しむ長田。一方、六甲道は大阪までJRで20分強。区内に神戸大などももあり、区人口は約13万5千人。震災のあった1995年比1・4倍だ。再開発地区の店舗面積は1・4倍の約2万7千平方メートル。空き店舗がないばかりか、大手チェーンの攻勢で入れ替わりが激しい。
再開発地区は街区ごとに1~6番に分かれる。1番街の店舗会「タントの会」(36店)会長久語(くご)孝夫(78)は「店舗同士のつながりが希薄となり、原点となる震災が風化しつつある」と話す。
進出したチェーン店の多くは「本部の意向」が最優先。まちづくりにあまり関心を示さない傾向がある。「いつまで震災にこだわるのか」という空気もある。タントはスペイン語で「にぎわい」。「再開発で住環境は整ったが、にぎわいの基盤であるまちづくりはまだまだこれから」
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兵庫県の年間商品販売額は震災前の94年を1とすると2007年は0・74。全国の0・83を下回り、日本経済の「失われた20年」を色濃く映し出す。住み慣れた地域の被災、自宅・店舗の損壊、仮設店舗、セルフ化、再開発…。店主らの歩む道のりは今なお厳しい。
採算が割れれば撤退していくチェーン店。一方、地場の店は地域に根を張り、住民とともに生きていくほかない。震災と停滞を超えて頑張る地場の店を後押しする姿勢がより大切になってくる。
JR六甲道駅の北側に出た。戦前から続く六甲本通商店街は約50の店舗すべてが商店街の会員だ。ここには貸店舗の所有者でつくる「六甲本通オーナー会」がある。「店舗をただ埋めるだけでなく、町のことを考えてどんな店がふさわしいか話し合おう」と09年に発足。全13軒のオーナーのうち8軒が加盟する。出店者に対し商店街活動に協力してもらえるよう呼びかける。
オーナー会会長の十亀(そがめ)長吉(70)は「店主もオーナーも協力して六甲道らしさを発信していきたい」。=敬称略=
(土井秀人)
▽JR六甲道駅南地区再開発 5・9ヘクタールに商業施設や915戸の分譲マンション、区役所などが入ったビル14棟を整備。総事業費は892億円で、2005年9月に事業が完了。イタリア人建築家が設計した広場もある。
2014/1/24