「元気な商店街は全体の店の1割が繁盛店」といわれる。阪神・淡路大震災以降、被災地で約1万店が姿を消した。店舗や地域が震災でやられ、規制緩和や消費不況の荒波に翻弄(ほんろう)された。そんな苦境を乗り越える店の力は、どこから生まれるのだろう。
神戸・長田のJR新長田駅南地区。お好み焼き店などが集まる路地に創作料理店「川島しょう店」がある。川島良弘(59)と厚子(56)夫妻が切り盛りし、2人の子どもが手伝う。料理とワインを手頃な値段で提供し、2~3カ月先まで予約で埋まる人気店だ。
以前は商店街の一角で酒販店を営み、立ち飲みも人気で繁盛していたが、震災で店舗が全焼。2カ月後、仮設店舗を建設して再開した。「被災者にきちんとした料理を食べてもらいたい」と飲食店を併設。料理に力を入れ、食事に合うワインの勉強に励んだ。
被災した店舗は再開発地区にあったが、価格面などを考慮し、再開発ビルに入らなかった。1998年に現在地へ。酒販業界の厳しさが募っていたこともあり、飲食一本に絞ったことが奏功した。「生き残るには何かに特化する必要があると判断した。あのとき、変化を恐れなかったから今がある」
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中小企業庁が2013年3月にまとめた調査報告によると、繁盛している商店街の個店が実施した改善・活性化策で、「店舗改装」などとともに「業種転換・業態変更」が上位に入った。長年、慣れ親しんだ業態から新分野に乗り出す。リスクを考えると、そのチャレンジには相当な覚悟が必要になる。
神戸・元町6丁目商店街。元町商店街の西端にあり、神戸の都心にありながら空き店舗に悩まされて久しい。老舗靴店4代目の片山喜市郎(31)は10年、隣接の空き店舗で革小物店「スタジオキイチ」を始めた。靴店の方はかつて職人を抱えて紳士靴などを製造していたが、現在は中断している。「どうせやるなら、新しいことに挑もうと思った」と力を込める。
職人大学で靴作りを学んだ経験を生かし、財布やカードケースなどを制作販売する。大手の雑貨店や通販などでも扱われるようになり、一人で始めた店は年間売上高4千万円ほどに成長。従業員5人を雇う。
さらに、若者を呼び込もうと、商店街の中央通路で若手作家らがブースを設けて展示販売するイベント「神戸クラフツアーケード」も続けている。「若い人に元町を好きになってもらいたい」。店のやる気が全体の底上げにつながる。=敬称略=(土井秀人)
〈商店街の抱える問題〉中小企業庁が全国8千の商店街に行った調査(複数回答)では「後継者難」「集客力のある店舗が少ない」などの回答が多く、「大型店との競合」を上回った。
2014/1/23