石畳にカフェや雑貨店、洋菓子店が並ぶ。神戸市東灘区・岡本商店街。「空き店舗がない元気な商店街」と評価される。JR摂津本山駅と阪急岡本駅に挟まれ、近くに三つの大学。若者や乗り継ぎ客が行き交い、にぎわいは相当なものだ。
石畳は阪神・淡路大震災後の1999年、岡本商店街振興組合が敷いた。「被災地域の再生に向け、商店街として連帯する証しがほしかった」と当時、組合理事長で雑貨店経営の橋谷惟子(のぶこ)(67)。3億円を超す整備費は補助金と商店街負担で賄った。
石畳はシンボルとなり、町のイメージは向上した。各地の商店街や市場で目立つシャッター通りはここにはない。しかし、半世紀以上町を見てきた橋谷の表情はさえない。大手のチェーン店が多いのだ。
証券、不動産、塾、飲食…。組合加盟230店舗のうち約3割に上る。町のブランド力が高まるにつれて賃料が高騰、代わりに増えたのがチェーン店だった。「高すぎて個人経営ではとても借りられない。このままではどこにでもある街になってしまう」
橋谷は住民や商店主らでつくる「美しい街岡本協議会」で会長を務め、景観保護に奔走する。出店者らと事前協議し、必要なら看板の色や大きさを変えてもらう。2010年から広告物のガイドラインづくりの検討を続ける。「規制は厳しすぎる」という声もある。それでも「岡本らしさがあるからこそにぎわう」。この哲学が町の強みなのだろう。
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個店が持ちこたえられず廃業した跡に、チェーン店が進出する。中小企業庁によると全国商店街のチェーン店舗率は年々上昇し、12年時点では7・8%。目抜き通りではより高い印象だ。受け入れる側では「シャッター通りよりまし」という声もある。
神戸の元町商店街に昨年9月、驚きと戸惑いが広がった。創業99年の海文堂書店が閉店。長年親しまれた老舗の後に入ったのは、大手チェーンのドラッグストアだった。
賃料が高止まりする三宮センター街も危機感を深める。開業70周年を迎える16年に向け、5年がかりのプロジェクトに取り組む。目指すのは「神戸らしい」商店街だ。店主らでコンセプトを練り、チェーン店をそろえたショッピングセンターにない魅力を打ち出したいとする。
三宮センター街1丁目商店街振興組合理事長で衣料品店経営の松谷斉泰(としやす)(65)は言う。「全国・世界チェーンに埋もれず、個性的な地場の店が存在感を発揮してこそセンター街だ」。店主の力量がいっそう問われる。=敬称略=
(土井秀人)
▽岡本商店街 振興組合には約230店が加盟。うち約60店がチェーン店だが、大型店は少ない。商店街エリアに広がる石畳は7700平方メートル。阪急岡本駅周辺は関西有数の高級住宅地。
2014/1/21