阪神・淡路大震災から20年目に入った。復興を目指した商業者たちは、経済危機や規制緩和、大型店の出店攻勢にさらされ、近年はインターネットの影響もあり、店舗数は減る一方だ。「失われた20年」を超えて地域商業はどこに活路を見いだすのか。消費者は何を選び取るのか。3人の専門家に聞くと、人口減・高齢社会になった今、モノの売買だけでなく、「社会」と深く関わり合うことの大切さが見えてきた。
町に出かけ、買い物や食事を楽しむ。美しい町並み、快適で安心できる雰囲気、顔の見える人間関係…。こうした小売業を取り巻く環境の重要性を指摘するのが流通科学大特別教授(商業論)の石原武政氏(70)だ。「小売業の外部性とまちづくり」などの著書で知られる第一人者だ。
【信頼感の中で商売】
「今の時代、商店街・市場が生活に必要なものすべてを提供することは不可能だ。足元にある地域の生活と向き合い、コミュニケーションを深め、信頼感の中で商売をするしかない」。例に挙げたのが長野県佐久市の岩村田本町商店街だ。子育てサロンや学習塾を開き、「地域の子どもは地域で育てる」という取り組みを続ける。「商店街には商人がいて、きちんと町を見ている。『お帰り』『元気』と子どもたちに声をかけ、安全・安心が守られている」
まちづくりに果たす商店の役割が再び注目されている。90年代の規制緩和以降、大型店が中小商店を追いやり、気付いたときには地域商業は疲弊していた。震災復興の過程で被災地には大型店が増え、状況はより深刻となっている。
【自覚する消費者】
元兵庫県職員で40年近く商業を担当してきたコンサルタント藤井玉夫氏(62)は「効率とコストを優先して生み出された画一的な商品ばかりを買うことが、本当に豊かな暮らしなのか。地域の特性が失われつつある」と危機感をにじませる。いつしか品ぞろえが良く、便利な大型店やスーパーで買い物する暮らしがすっかり定着した。
しかし、全国でシャッター通りが増えて中心市街地の空洞化が進む中、消費者の中に自覚が生まれつつあるという。「地域をつくるという意識があるのなら、頑張る商店街や市場を支えることが重要」と呼び掛ける。
【徹底論議を】
取材を通じて目に焼き付いたのが、町に溶け込む商人の姿だった。モノを売る「経済性」と地域と関わる「社会性」。被災地商業の再生を支援した元神戸市職員でコンサルタントの中多英二氏(63)は言う。「商売への理念をしっかり持つ。そしてとことん地域と向き合って徹底的に議論する。商店街や市場は保守的なところが多いが、試行錯誤し、失敗することも重要だ。反省があるからこそ次に生かされる」
地元に深く根差す商人がいてこそ、町の魅力が生まれる。(土井秀人)
=おわり=
2014/1/26