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 年末、1年ぶりに立ち寄った人と防災未来センター(神戸市中央区)で、前回はなかった外壁の表示に思わずくぎづけになった。ガラス張りの壁を見上げた先に、くっきり描かれた赤いラインと「ここが34・4メートル」の文字。同センターの5階部分に当たる。

 内閣府の検討会が2012年3月に示した南海トラフ巨大地震の津波想定で、高知県黒潮町を襲うとされた国内最大の津波高だ。巨大地震の津波被害を実感してもらおうと同センターが17年4月に表示を新設した。館内でも吹き抜けに懸垂幕をかけて他都市の津波想定を示しているが、高さ15メートルまでが限界。このため外壁に掲示して外から見えるようにしたという。

 いきなりこの数字をつきつけられた町の人たちの戸惑いや不安はどれほどだったろう。神戸の見慣れた風景に刻まれた「高さ」を目の当たりにして、あらためて衝撃の大きさを思い知る。

 「自分たちは34メートルの津波に対応できる防災をやっている。住民一人一人が自信を持ってそう言えるまで、この町でしかできない対策を一歩ずつ前に進める」。昨秋、高知県を訪れた際に話を聞いた大西勝也黒潮町長の真剣な表情が思い浮かぶ。

 この5年余りは二つの「諦め」との戦いだったという。一つは「逃げても仕方ないから逃げない」という避難放棄、もう一つは「津波リスクの高い町では暮らせない」と町を去る人の流出。人口約1万2千人の自治体が背負うにはあまりに重い課題だ。

 それでも諦めるわけにはいかない。地区ごとにあぶり出した課題を班単位に落とし込み、関係者や対象面積、課題の種類を大幅に減らす。全職員に担当地域を割り振り、住民と議論を重ねた。大きすぎる課題を細分化することで、できることが見えてきた。世帯ごとの課題を書き込む「戸別避難カルテ」は回収率100%という。

 マイナスの“知名度”を逆手にとった産業振興策も注目を集める。缶詰製作所を立ち上げ、備蓄食糧を基幹産業として雇用を増やす試みだ。缶詰のラベルは「34M」。自らの備蓄と同時に、必要とする他自治体の支援物資にもなる「支援想定型備蓄」を提唱し、全国展開を図る。

 諦めず、できることから行動する。その積み重ねが災害に強いまちをつくる。「34・4メートル」の表示が再認識させてくれた。

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