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大会出場を信じて練習に励む選手。猛暑の中でも集中は切らさない=明石市魚住町清水
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大会出場を信じて練習に励む選手。猛暑の中でも集中は切らさない=明石市魚住町清水

 「部員は3年生1人」。明石西高校(兵庫県明石市二見町西二見)ラグビー部の上野孝徳監督(52)が嘆く。明石市内では現在、ラグビー部がある高校3校の全部員を集めても、試合に必要な人数に足りない。しかもいずれも1年生はゼロ。3年前まで3校とも大会に出場できていたのに3年間で何が起きたのか。高校まで14年間、ラグビーを続けた記者が市内のラグビー事情を探った。(有冨晴貴)

■“超人”のスポーツ

 市内でラグビー部がある高校は明石西、明石清水(魚住町清水)、明石城西(大久保町谷八木)の3校。部員はそれぞれ1人、10人、2人で合計13人。合同チームを組んでも試合に必要な15人に届かない。現在は東播工業高校を加えた4校で大会出場を目指すが、それでも人数が足りない。

 明石の高校からラガーマンが消えた理由は-。

 「日本代表の活躍の影響が大きいのではないか」。そう語るのは明石西高の上野監督。15年ワールドカップ(W杯)イングランド大会で、世界屈指の強豪・南アフリカを破るなど近年の日本代表の活躍ぶりはめざましく、各種メディアで選手を見る機会も増えた。

 「一見喜ばしいことだが、選手の体格のすごさがラグビーは超人のスポーツとのイメージを広めた」と上野監督は指摘する。自分ができるスポーツではない-と、新たに始める未経験者が減ったというのだ。

 恵まれた身長や体重、足の速さが有利なのは事実。一方で身長の低い選手は密集した選手の中からボールを拾い、仲間につなぐスクラムハーフというポジションに向いている。ラグビーにはそれぞれの体格や能力に合った活躍の場があるはずなのだが…。

■高いレベル求め流出

 国内では競技人口の裾野が決して広いとは言えないラグビー。明石市の3高校の部員は、高校入学まで経験がない生徒ばかりだ。

 しかし、市内には小中学生中心のクラブチーム「明石ジュニアラグビークラブ」がある。園児から中学生まで約140人が所属。07年の創立以来、総勢170人のラガーマンを育ててきた。ここを卒業した選手たちはどこへ行くのだろう。

 「16年に4人が明石西高のラグビー部に入ったのを最後に、市内の高校でラグビーをするクラブの選手はいなくなった」と同クラブ事務局。ラグビーを続ける選手の多くは、市外の高校に進学するという。

 理由は大きく二つ。

 一つは部員数。新入部員が安定しない学校では常に、人数が不足して試合ができなくなる恐れがあるため、市外や県外でも部員数が多い高校を選ぶという。

 もう一つは、同クラブの選手レベルの高さだ。創立以来、着実に実力を伸ばし、18年にはクラブ出身者で初めてとなる高校日本代表の選手も誕生。その結果、選手たちの間で強豪校志向が強まったというのだ。

 「できれば市内の高校に進んでほしいが、ハイレベルな環境に身を置きたい気持ちも分かる」。強豪校と市内校の差が開き続ける現状に、事務局の女性は複雑な心境をのぞかせる。

■勧誘にイメージの壁

 新入部員の勧誘について明石清水高の平岡桜雅(おうが)主将(18)に尋ねると「だいたいすぐに断られる。痛い、怖いのイメージが先行し、そもそも選択肢に入っていない」と苦笑する。

 日本代表の活躍ぶりや、明石のラグビー関係者らが設立に尽力したジュニアクラブの存在は、競技人口の裾野を広げた。しかし、高校ラグビー部の存続が危ぶまれる状況が続けば、新たな競技者の流入を遠ざけ、明石に根付きかけたラグビー文化の後退を招くことは明らかだ。

 メジャースポーツへ一歩を踏み出したラグビー。体験してこそ分かるこの競技の魅力を伝える場を守れるかどうかの瀬戸際が迫る。

<コラム>ぶつかりあう。それが魅力

 明石市内の高校でラグビーを続ける今の部員たちはなぜ、やろうと思ったのだろうか。それを聞きたくて明石城西高と明石清水高の合同練習に足を運んだ。

 8月の容赦ない日差しの下、練習に参加していたのは11人。記者も練習に加わった。

 攻守に分かれた練習では、攻撃側のフォワードが内側に鋭く走り込んでボールを受ける動きに驚く。守備側はフォワードが発する圧力に気を取られるが、後方のバックスにフォワードからパスが渡ることもあり、気が抜けない。合同チームの攻撃とは思えなかった。

 中でも明石清水高の平岡主将は相手の重心を外した当たりと細かいステップで突破するプレーの激しさが目を引いた。ラグビー経験はなく、高校1年までは野球部。始めた理由は「相手にぶつかって吹き飛ばすシンプルさが向いていると思った」。

 新入部員がなければ、廃部もあり得る3校のラグビー部。それでもラグビーを続けるのは「痛さ、怖さ以上の面白さがあるから」と平岡主将。ラグビーで一番大事なのは、心を強く保つこと。苦境にあって一心にプレーする彼らの姿が思い出させてくれた。

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