兵庫県明石市の福浪弘和さん（３５）が、１３日から人力車を引いて日本一周の旅に出る。道すがら出会った人々を無料で乗せながら、３、４年かけて全国各地を巡るという。明石から全国、そしていつかは世界へ。「コロナ禍の今こそ、人力車でみんなを笑顔にしたい」との思いを胸に旅立つ。（川崎恵莉子）

　２０１９年冬、観光で訪れた東京・浅草で初めて人力車に乗った。高い座席から見えた景色や車夫との会話に心を奪われた。「自分もやりたい」。半年後に自費で１９０万円の人力車を購入。日本一周を目標に、本職の板前の仕事をしながら明石公園で人力車を無料で引き始めた。

　日曜日を中心に、２年間で約２千人が利用した。顔見知りが増え、何度も乗りに来る子どももいた。観光地などで人力車に乗る費用は手ごろとはいえず、乗ったことがない人がほとんどだった。「みんな人力車に乗ること自体を楽しんでくれた。高い買い物だったけど、喜んでくれる姿を見たら安いもんです」と笑う。

　昨夏は新型コロナウイルスの緊急事態宣言発令で店が休業となり、予行練習も兼ねて淡路島へ。幼稚園や小学校から「来てほしい」と依頼が殺到した。島内一周の予定は果たせなかったが、思わぬ出会いも旅の醍醐味（だいごみ）だという。

　げた履きのフルマラソンで、３時間５８分４３秒のギネス記録を持つ福浪さん。靴を持っていないので、人力車にげた履きがトレードマークだが、特注げたは傷みやすく、これまで１２０万円を投じてきた。費用や荷物を考え、日本一周では主に足袋を使う。

　１３日正午、２月末まで勤務していた和食料理店「四季の味はやしだ」（明石市大明石町２）の前を出発する。まずは兵庫県庁を目指し、瀬戸内海沿いを東へ進んでいく。野宿を続けながら、食料は魚釣りなどで確保する。

　「日本一周は昔からの夢だった。どんな出会いや景色が待っているのか楽しみ」と晴れやかに語った。