会社員で統合失調症を患う田寺誠人さん（４３）＝兵庫県明石市＝による色鉛筆画が、次々と企業に採用されている。障害者アートを企業などが応援する「障がい者自立推進機構」の「パラリンアート」への作品登録がきっかけで、スポーツ用品メーカー「ニューバランス」のＴシャツにも起用された。田寺さんは「たくさんの人に作品を見てもらえることが素直にうれしい」と語る。

　小学生時代、近所で油絵を習った。その後、絵から遠ざかったが、大学時代に好きなアニメ「機動戦士ガンダム」をふと身近にあった色鉛筆で描き始め、雑誌に投稿を重ねた。就職後は、年賀状に描いたり模写したりするだけになった。

　統合失調症と診断されたのは３３歳のとき。「営業の仕事が自分には負担だったのかな」と振り返る。「自分の頭に浮かんだことを通りすがりの他人がしゃべり出す」などの妄想に襲われ「見聞きするものすべてが自分とつながる感じだった」と説明する。

　絵の感覚を取り戻したのは半年間の入院中。「塗り絵の時間があり、唯一の楽しみになった」と話す。退院後に通ったデイケアのスタッフに勧められ、４年前に喫茶店で開いた作品展が転機になった。「見てもらう喜びを感じ、お客さんの感想に応じるように絵が鮮やかになった」と話す。

　現在５８２人の作家が登録するパラリンアートに登録したのは昨年３月。ニューバランスのウエア「９ＢＯＸ」コレクションのデザインには、９人が選ばれた。テーマは「地球」で田寺さんは地球に浮かぶ「花の大陸」をイメージし、優しい風合いにデザインした。「男女ともに着てもらいやすくした」と話す。同社公式サイトで購入できる。

　このほか、各社のカレンダーや年賀状、クリアファイル、社屋の装飾用にも作品が選ばれている。田寺さんは「今年は多くのチャンスをもらえ充実感があった。これからも作品を見た人に和やかな気持ちになってもらえるよう鮮やかできれいに描きたい」と気持ちを新たにする。